櫻貿易株式会社
制度・政策・審議会上級

需給調整市場の上限価格15円引下げと蓄電池の収益性 ― 第二十三次中間とりまとめ(案)のIRR10.3%試算と限界費用算定式

制度検討作業部会の参考資料1『第二十三次中間とりまとめ(案)』は、2026年3月13日取引分以降に一次・二次①の募集量を3σ相当量から1σ相当量へ削減し、上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円へ引き下げる方向を整理した。あわせて、Capex6万円/kWhの蓄電池が10円/ΔkW・30分で10年約定した場合のIRRを10.3%と試算し、蓄電池の限界費用算定式・蓄電原資の定義・FIP電源併設蓄電池の固定費回収ルールまで踏み込んでいる。本記事は、この収益性・入札価格設計の部分を読み解く。

このページの要点

  1. 2026年3月13日取引分以降、一次・二次①の上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円へ引下げ、募集量は3σ相当量から1σ相当量へ削減する方向。競争の改善が見られない場合は10円、7.21円へ段階的に引下げるとされる(第二十三次中間とりまとめの案の段階)。
  2. 事務局は蓄電池の収益性をモデルケースで試算し、Capex6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年約定した場合のIRRを10.3%と算定。投資目線とされるIRR5〜10%を下回らないため、上限価格を一定程度引き下げても事業継続への悪影響は大きくないと整理した。
  3. 需給調整市場ガイドライン改定で、蓄電池・揚水の限界費用算定式、蓄電原資の考え方、ΔkW価格=逸失利益+一定額・kWh価格=限界費用×10%の範囲という入札規律を明記。FIP電源併設蓄電池は蓄電池にかかる固定費のみ算入、B種電源協議は2026年度廃止となる。

出典:総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会(第110回・2026年1月23日)参考資料1『第二十三次中間とりまとめ(案)』(全44ページ)。

要旨 ― ひと言でいえば

調整力で稼ぐ蓄電池の「値段の天井」を下げにいく制度案が、同時に「その天井でも投資は成り立つ」というIRR10.3%の根拠と、「いくらまでコストを乗せて札を入れてよいか」という限界費用の算定式をセットで示した。蓄電池側は、収益モデルと入札価格ロジックの両方を作り直す必要がある。

目次

  1. 前提:2026年度需給調整市場見直しの骨格
  2. 蓄電池の収益性試算 ― 10円/ΔkW・30分でIRR10.3%
  3. 入札価格規律と蓄電池の限界費用算定式
  4. FIP併設蓄電池の固定費回収とB種電源協議廃止
  5. よくある質問(Q&A)
  6. 編集部の見立て(独自分析)
  7. 出典(一次情報)

前提:2026年度需給調整市場見直しの骨格

まず、収益性を読むための前提となる価格・数量の枠組みを押さえる。

第二十三次中間とりまとめ(案)は、需給調整市場を中心に2025年度に議論・変更された制度を取りまとめた文書である。2026年3月13日取引分から複合市場(一次〜三次①)が前日取引化・30分化されることに合わせ、一次調整力・二次調整力①の募集量を3σ相当量から1σ相当量へ削減し、上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円へ引き下げるとされた。市場の競争改善が見られない場合は10円、7.21円へ段階的に引き下げ、改善が見られれば募集量を増加させ上限引下げを停止する。判断は前日取引開始後1・2・3・6か月の実績で行うとされている。

三次調整力②市場については、1σ相当又は3σ相当×募集量削減係数の小さい方を継続適用し、上限価格は設定しないとされた。

※ 募集量の1σ化と上限価格引下げそのものの制度内容(適用範囲・判断プロセス等)は、別記事「需給調整市場について(制度検討作業部会 第110回)」で詳報している。本記事は重複を避け、蓄電池の収益性・投資影響と入札価格設計の観点に絞る。

蓄電池の収益性試算 ― 10円/ΔkW・30分でIRR10.3%

価格の天井を下げる根拠として、事務局は蓄電池のIRRを提示した。

図1:蓄電池収益性試算のモデルケース ― Capex6万円/kWhで IRR10.3%(試算)

需給調整市場の上限価格引下げでCapex6万円/kWhの蓄電池が10円で10年約定した場合IRR10.3%とする試算の図

出典:制度検討作業部会 参考資料1『第二十三次中間とりまとめ(案)』。モデルケースの前提条件は同資料に記載された値。

本中間とりまとめ(案)が蓄電池事業者にとって最も重要なのは、上限価格の引下げ幅そのものよりも、その水準でも投資は成り立つとする収益性試算が一次資料に明示された点である。事務局はモデルケースを設定し、Capex6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年約定した場合のIRRを10.3%と算定した。そのうえで、投資目線とされるIRR5〜10%を下回らないため、上限価格を一定程度引き下げても事業継続に大きな悪影響はないと整理している。

一方、三次調整力②市場では、募集量の削減により蓄電池・火力の高単価約定が減少したことが整理されている。また、募集量の1σ化についてはエリアによって蓄電池の参入余地を圧迫する懸念が委員から提起された。IRR試算はあくまでモデルケースの一点であり、エリア別の約定機会の減少をどう織り込むかは事業者側の検討課題として残る。

一次資料の記載(要旨)

Capex6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年約定した場合、IRRは10.3%。投資目線であるIRR5〜10%を下回らないため、上限価格を一定程度引き下げても事業継続に大きな悪影響はないと考えられる。

— 第二十三次中間とりまとめ(案)

入札価格規律と蓄電池の限界費用算定式

いくらまでコストを乗せて札を入れてよいかが、算定式として定められる。

図2:ΔkW価格・kWh価格の入札規律と蓄電池の蓄電原資の扱い

蓄電池のΔkW価格は逸失利益+一定額、kWh価格は限界費用±10%とする入札規律と蓄電原資の扱いを示した図

出典:制度検討作業部会 参考資料1『第二十三次中間とりまとめ(案)』(需給調整市場ガイドライン・適取ガイドライン改定に関する整理)。

価格規律の見直しは、適正な電力取引についての指針(適取ガイドライン)と需給調整市場ガイドラインの改定として進められた。2025年12月10日に電力・ガス取引監視等委員会から経済産業大臣へ建議され、2025年12月26日から2026年1月29日までパブリックコメントが実施されている。改定では、ΔkW価格=逸失利益(機会費用)+一定額、kWh価格=限界費用±一定額(限界費用×10%)という規律が明記された。

蓄電池の場合、この限界費用をどう積むかが実務上の焦点になる。改定案では蓄電池・揚水の限界費用算定式が示され、その基礎となる「蓄電原資」の考え方が整理された。

あわせて、想定応札量の算定にあたっては蓄電池の充放電制約を考慮すること、容量市場収入は得ていない場合もみなし控除(約定価格×期待容量)とすることが規定された。さらに「問題となる行為」として、不合理な入札価格・登録価格による不当な収益の取得等が追記されている。登録kWh価格・ΔkW価格の算定根拠資料を整備しておくことが、コンプライアンス上の前提となる。

FIP併設蓄電池の固定費回収とB種電源協議廃止

固定費回収の範囲と、その確認プロセスが同時に変わる。

固定費回収の面では、FIP電源に併設された蓄電池について、蓄電池にかかる固定費のみを固定費回収額に算入すると限定された。FIP電源側の固定費を蓄電池の入札価格に乗せることはできないという整理であり、併設案件の入札価格設計に直接効く。

手続面では、B種電源協議が2026年度から廃止される。B種電源協議の件数は2024年度の5件から、2025年度は10月17日時点で34件へ急増していた。廃止後は、事前的措置の対象事業者に対して四半期ごとの固定費回収状況の報告を求める形へ移行する。

このほか本中間とりまとめ(案)では、揚水の応札拡大方針(対応策①②)の継続、EPRXの運営主体の法的位置づけを法制度上の措置を含めて検討すること、売買手数料を0.03円/ΔkW・30分から0.06円/ΔkW・30分へ引き上げる意向も整理されている。

いま確認すべきこと

  • 蓄電池事業者・アグリゲーターは、2026年3月13日からの上限価格15円(→10円・7.21円)・募集量1σ化を織り込み、複合市場・三次②市場への振り分けと入札価格ロジックを再設計する。
  • 需給調整市場ガイドライン(改定案)の限界費用・機会費用・蓄電原資・FIP併設蓄電池の固定費算入ルールに沿って、登録kWh価格・ΔkW価格の算定根拠資料を整備する(パブリックコメントは2026年1月29日まで実施された)。
  • 事前的措置の対象となる蓋然性のある事業者は、四半期ごとの固定費回収状況報告と取引開始前の価格規律確認に備え、B種電源協議廃止後の体制を整える。

読者別の緊急度

初級(投資家・土地オーナー)3/5

蓄電池の調整力収益の前提が変わる方向性を今月中に把握しておきたい。

中級(建設・メーカー・設計)4/5

設計・EMS側は限界費用算定・充放電制約の織り込みを今週中に確認すべき。

上級(事業者・アグリゲーター)5/5

収益・入札ロジックに直結する。価格規律への対応を含め最優先で押さえる領域。

よくある質問(Q&A)

上限価格と募集量はどう変わる方向ですか?

第二十三次中間とりまとめ(案)では、2026年3月13日取引分以降、一次調整力・二次調整力①の募集量を3σ相当量から1σ相当量へ削減し、上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円へ引き下げるとされています。市場の競争改善が見られない場合は10円、7.21円へ段階的に引き下げ、改善が見られれば募集量を増加させ上限引下げを停止するとされています。三次調整力②市場は1σ相当又は3σ相当×募集量削減係数の小さい方を継続適用し、上限価格は設定しないとされています。いずれも中間とりまとめの案の段階の整理です。

蓄電池の収益性はどのように試算されていますか?

モデルケース(稼働10年・15年、約定2ブロック/日=6時間相当、応札価格5〜19.51円/ΔkW・30分、4時間率)で試算され、Capex6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年約定した場合のIRRは10.3%と算定されています。事務局は投資目線とされるIRR5〜10%を下回らないため、上限価格を一定程度引き下げても事業継続に大きな悪影響はないと整理しています。

蓄電池の限界費用はどのように算定するのですか?

需給調整市場ガイドライン改定案では、蓄電池・揚水の限界費用算定式が示され、その基礎となる蓄電原資の考え方として、スポット調達価格、自社充電費用、充電済み電気の加重平均価格が挙げられています。インバランス補給による充電分は蓄電原資として扱えないとされています。

ΔkW価格とkWh価格の入札規律はどう定められていますか?

ΔkW価格は逸失利益(機会費用)+一定額、kWh価格は限界費用±一定額(限界費用×10%)の範囲とする規律が明記されています。あわせて、不合理な入札価格・登録価格による不当な収益の取得等が『問題となる行為』として追記されています。

FIP電源に併設した蓄電池はどこまで固定費を回収できますか?

FIP電源に併設された蓄電池については、蓄電池にかかる固定費のみを固定費回収額に算入するとされています。また、容量市場収入は得ていない場合もみなし控除(約定価格×期待容量)が行われ、想定応札量の算定では蓄電池の充放電制約を考慮するとされています。

B種電源協議はどうなりますか?

B種電源協議は2026年度から廃止されます。2025年度は10月17日時点で34件と急増しており(2024年度は5件)、廃止後は事前的措置の対象事業者に対して四半期ごとの固定費回収状況の報告を求める形へ移行します。

意見提出の期限はいつでしたか?

価格規律の見直しに関するガイドライン改定は、2025年12月10日に電力・ガス取引監視等委員会から経済産業大臣へ建議され、2025年12月26日から2026年1月29日までパブリックコメントが実施されました。

編集部の見立て(独自分析)

独自分析

  • 上限価格の段階引下げ(15→10→7.21円/ΔkW・30分)は、蓄電池の調整力アービトラージの上振れを構造的に抑制する。事務局はCapex6万円/kWh・IRR10.3%の試算で投資目線を確保できるとしており、価格引下げと事業継続性の両立をどう証明するかが論点になっている。
  • 蓄電原資の定義(スポット調達価格・自社充電費用・充電済み電気の加重平均価格、インバランス補給充電は不可)と、ΔkW価格の逸失利益=起動費等と卸電力市場価格(予想)との差額という枠組みは、蓄電池が合法的に積める入札価格の上限を実質的に規定する。算定根拠の記録が実務の要になる。
  • FIP併設蓄電池が「蓄電池にかかる固定費のみ」に限定され、B種電源協議廃止と四半期報告へ移行することで、固定費回収の透明化と事前確認が制度として組み込まれる。併設案件は入札価格の内訳を分離して説明できる体制が必要になる。

※本ブロックは一次資料の事実に基づく編集部の見立てであり、確定情報ではありません(2026年7月時点)。中間とりまとめは案の段階であり、内容は変更され得ます。

この記事のまとめ

制度検討作業部会(第110回・2026年1月23日)の参考資料1『第二十三次中間とりまとめ(案)』は、2026年3月13日取引分以降に一次・二次①の募集量を3σ相当量から1σ相当量へ削減し、上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円へ(改善が見られない場合は10円、7.21円へ段階的に)引き下げる方向を整理した。蓄電池にとっての要点は、その水準を支える収益性試算と入札価格規律である。Capex6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年約定した場合のIRRは10.3%と算定され、投資目線のIRR5〜10%を下回らないとされた。需給調整市場ガイドライン改定では、蓄電池・揚水の限界費用算定式、蓄電原資の考え方(スポット調達価格・自社充電費用・充電済み電気の加重平均価格、インバランス補給充電は不可)、ΔkW価格=逸失利益+一定額、kWh価格=限界費用×10%の範囲が明記され、FIP電源併設蓄電池は蓄電池にかかる固定費のみを算入、容量市場収入はみなし控除、想定応札量には充放電制約を考慮するとされた。B種電源協議は2026年度に廃止され、四半期ごとの固定費回収状況報告へ移行する。蓄電池事業者は、収益モデルと入札価格の算定根拠の双方を作り直す必要がある。

編集体制

執筆

BESSNEWS編集部

系統用蓄電池の制度・市場・ファイナンスを一次資料に基づき解説する専門編集チーム。

監修

BESS NEWS編集長

系統用蓄電池の制度・系統運用を専門とする社内専門家。本記事の制度記述・数値を確認。

出典(一次情報)

  1. 資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会
    https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/system_review/index.html
  2. 制度検討作業部会(第110回・2026年1月23日)参考資料1『第二十三次中間とりまとめ(案)』(全44ページ)/保存ファイル名:20260102_総合エネ調_参考資料1第二十三次中間とりまとめ(案).pdf

本記事は上記一次資料に記載された内容のみに基づいています。中間とりまとめは案の段階であり、記載の数値・方針は今後変更され得ます。

出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/institutional/proffessional/4602403102001/

本記事は BESS media の転載条件(出典明記のうえ全文転載可)にもとづき転載しています。 記事内容の著作権は転載元に帰属します。

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