需給調整市場の募集量削減・上限価格引下げ ― 第二十三次中間とりまとめが示す蓄電池の調整力収益への影響
資源エネルギー庁 制度検討作業部会は第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月)で、需給調整市場の応札不足・調達コスト高騰への対応を整理した。一次・二次①の募集量を1σ相当へ削減し上限価格を15円/ΔkW・30分とする一方、蓄電池事業の収益性をIRRで試算し上限価格引下げの妥当性を検討している。
このページの要点
- 制度検討作業部会が第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月・全44頁)を公表し、需給調整市場の応札不足・調達コスト高騰への対応を整理した(意見募集90件を経て確定)。
- 2026年度以降(2026年3月13日取引・14日受渡分より適用)、複合市場(一次・二次①)の募集量を3σ相当から1σ相当へ削減し、上限価格を15円/ΔkW・30分とする等の措置と、市場外調達(余力活用・揚水随契)の併用を整理した。
- 蓄電池事業の収益性をモデルケースで検討し、Capex6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年約定した場合のIRRは10.3%と試算、上限価格を19.51円から一定程度引き下げても事業継続への大きな悪影響はないとした。
出典:制度検討作業部会 第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月)。
高騰した調整力の調達コストを抑えるため、需給調整市場の募集量と価格の天井を絞り、市場外の調達手段も併用する改革の整理である。当局は蓄電池がそれでも採算に乗るかをIRRで試算し、上限価格引下げの妥当性を裏づけた。
目次
- 需給調整市場の応札不足・調達コスト高騰と対応の全体像
- 募集量1σ削減・上限価格15円/ΔkW・30分と市場外調達の併用
- 蓄電池の収益性検討(IRR10.3%)と上限価格引下げへの影響
- よくある質問(Q&A)
- 編集部の見立て(独自分析)
- 出典(一次情報)
需給調整市場の応札不足・調達コスト高騰と対応の全体像
全商品取引の開始後、一部商品で競争が働かず高単価約定が可能となり、調達コストが高騰した。
需給調整市場は2024年度の全商品取引開始以降、一部商品で応札が募集量に届かず(応札未達)、競争が行われないまま高単価での約定が可能となり調達コストが高騰した。制度検討作業部会は、この課題への対応を第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月・全44頁)で整理した。とりまとめは意見募集(90件)を経て確定している。
とりまとめは、需給調整市場を中心に、取引状況、募集量に関する措置、今後の検討、揚水発電に関する対応、運営主体の位置づけ、売買手数料、価格規律の見直しといった市場整備の方向性を扱う。柱となるのは、募集量と上限価格の見直し、そして市場外調達手段の併用である。
需給調整市場は2024年度の全商品取引開始以降、一部商品で応札未達により競争が行われず高単価約定が可能となり、調達コストが高騰した。これに対応するため募集量に関する措置等を講じる。
— 制度検討作業部会 第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月)需給調整市場は系統用蓄電池の主要な収益源の一つであり、募集量と上限価格の見直しは蓄電池の約定機会と単価の双方に直接影響する。
募集量1σ削減・上限価格15円/ΔkW・30分と市場外調達の併用
複合市場を前日取引化・30分化するとともに、募集量と上限価格の天井を絞る。
図1:一次・二次①の募集量1σ削減・上限価格15円/ΔkW・30分と市場外調達の併用
出典:制度検討作業部会 第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月・全44頁)。19.51円/ΔkW・30分は収益性検討の応札価格上限として用いられた値。
2026年度以降(2026年3月13日取引・14日受渡し分より制度変更を適用)、複合市場の取引を前日取引化・30分化するとともに、一次調整力・二次調整力①の募集量を3σ相当量から1σ相当量へ削減し、上限価格を15円/ΔkW・30分とする。競争状況に改善が見られない場合は段階的に引き下げる措置を講じる。
あわせて、市場外調整力(自然体余力)の募集量控除や、複数エリアでの揚水随意契約による募集量削減も実施される。市場外調達手段(余力活用電源・揚水等随意契約)は当面の間併用していくと整理され、制度的な応札義務化は見送られた。
市場外調達と揚水への対応
市場外調達
余力活用電源・揚水等随意契約を当面併用。市場外調整力の募集量控除・揚水随契による募集量削減も実施。制度的応札義務化は見送り。
揚水発電
前日取引化後もアセスメント違反・計画不一致リスクが残るため、対応策①②(TSOによる代替ΔkW用意・最低出力の系統並列等)を2026年度以降も継続。
これらの措置は、いずれも市場の募集量、すなわち蓄電池が応札できる市場規模を構造的に縮小させる方向に働く。
蓄電池の収益性検討(IRR10.3%)と上限価格引下げへの影響
当局は、上限価格を引き下げても蓄電池が採算に乗るかをモデルケースで試算した。
図2:蓄電池の収益性モデルケースと試算IRR10.3%、上限価格引下げへの影響
出典:制度検討作業部会 第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月)。確定値ではなくモデルケースの試算。
とりまとめは、実際の応札動向・事業者ヒアリングを基に、蓄電池事業の収益性をモデルケースで検討した。前提は、稼働10・15年、約定量2ブロック/日(6時間相当)、応札価格5〜19.51円/ΔkW・30分、4時間率である。その結果、Capex単価6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年継続約定した場合のIRRは10.3%と試算された。
この試算IRR10.3%が投資目線のIRR5〜10%を下回らないことから、とりまとめは上限価格を19.51円/ΔkW・30分から一定程度引き下げても、事業継続上の大きな悪影響はないと整理した。この結論は、今後の上限価格引下げの政策的根拠となる。
Capex単価6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年継続約定した場合のIRRは10.3%と試算され、投資目線のIRR5〜10%を下回らない。このことから、上限価格を19.51円/ΔkW・30分から一定程度引き下げても事業継続上の大きな悪影響はないと整理される。
— 制度検討作業部会 第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月)蓄電池の高単価約定と価格規律
三次調整力②では2024年度に募集量削減係数を導入した結果、蓄電池・火力の高単価約定が減少し、約定単価の抑制に寄与したと分析されている。価格規律の見直しでは、揚水機・蓄電池の調整力kWh価格(限界費用)の算定式や、FIP電源併設蓄電池のB種電源協議における取扱い・固定費算入の考え方も整理されている。
- 系統用蓄電池事業者・アグリゲーターは、一次・二次①の募集量1σ削減・上限価格15円/ΔkW・30分(さらなる段階的引下げの可能性)を織り込み、約定機会と単価の前提を見直した収益モデルを再設計する。
- 当局のIRR試算(Capex6万円/kWh・10円・10年・IRR10.3%)の前提(Capex・約定率・時間率)の妥当性を自社案件で検証し、上限価格引下げ余地の議論に備える。
- 市場外調達(余力活用・揚水随契)の併用が市場募集量に与える影響を継続把握し、調整力kWh価格の限界費用算定式に沿った入札価格の合理性を確保する。
- 三次②の募集量削減係数による高単価約定の減少傾向を踏まえ、複数市場を横断した収益ポートフォリオを再点検する。
読者別の緊急度
蓄電池の調整力収益の前提(募集量・上限価格)の変化を今月中に把握すべき。
設計・EMS側は約定機会・単価の前提変更を今週中に確認すべき。
収益モデルに直結する募集量・上限価格・IRR試算を絶対に今押さえるべき。
よくある質問(Q&A)
第二十三次中間とりまとめとは何ですか?総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会がまとめた、需給調整市場を中心とする市場整備の方向性の中間とりまとめです(令和8年3月・全44頁)。取引状況、募集量に関する措置、揚水対応、価格規律の見直し等を整理し、意見募集90件を経て確定されました。
募集量はどう変わりますか?2026年度以降、複合市場の一次調整力・二次調整力①の募集量を3σ相当量から1σ相当量へ削減します。あわせて市場外調整力(自然体余力)の募集量控除や、複数エリアでの揚水随意契約による募集量削減も実施されます。
上限価格はいくらになりますか?一次・二次①の上限価格を15円/ΔkW・30分とし、競争状況に改善が見られない場合は段階的に引き下げる措置を講じます。制度変更は2026年3月13日取引・14日受渡分から適用されます。
市場外調達はどうなりますか?余力活用電源・揚水等随意契約といった市場外調達手段は、当面の間併用していくと整理されました。制度的な応札義務化は見送られています。
蓄電池の収益性はどう試算されましたか?モデルケース(稼働10・15年、約定量2ブロック/日(6時間相当)、応札価格5〜19.51円/ΔkW・30分、4時間率)で検討され、Capex単価6万円/kWhの電源が10円/ΔkW・30分で10年継続約定した場合のIRRは10.3%と試算されました。投資目線のIRR5〜10%を下回らないことから、上限価格を19.51円/ΔkW・30分から一定程度引き下げても事業継続上の大きな悪影響はないと整理されています。
蓄電池の約定にはどう影響しますか?募集量の削減(3σ→1σ)と市場外調達の併用は市場規模を構造的に縮小させ、上限価格の引下げは単価を圧縮します。三次調整力②では2024年度に導入された募集量削減係数により、蓄電池・火力の高単価約定が減少し約定単価の抑制に寄与したと分析されています。
編集部の見立て(独自分析)
独自分析
- 当局が蓄電池事業の収益性をモデルケース(Capex6万円/kWh・10円/ΔkW・30分・10年・IRR10.3%)で試算し上限価格引下げの妥当性を裏づけた点は、今後の上限価格引下げの政策的根拠であり、Capex・約定率・時間率の前提が収益試算の分水嶺となる。
- 一次・二次①の募集量の3σ→1σ削減と市場外調達(余力活用・揚水随契)の併用は、蓄電池が応札できる市場規模を構造的に縮小させ、新規参入リソースの市場競争を厳しくする(パブコメでも「新規リソースのみが勝算の低い競争に晒される」との懸念が示された)。
- 揚水機・蓄電池の調整力kWh価格(限界費用)の算定式やFIP電源併設蓄電池のB種電源協議・固定費算入の整理は、蓄電池の調整力kWh市場での入札価格の合理性監視の前提となる。
※本ブロックは一次資料の事実に基づく編集部の見立てであり、確定情報ではありません(2026年7月時点)。
この記事のまとめ
制度検討作業部会の第二十三次中間とりまとめ(令和8年3月・全44頁)は、需給調整市場の応札不足・調達コスト高騰への対応として、一次・二次①の募集量を3σ相当から1σ相当へ削減し、上限価格を15円/ΔkW・30分(改善なければ段階的引下げ)とする措置を整理した。市場外調達(余力活用・揚水随契)は当面併用し、制度的応札義務化は見送り。蓄電池の収益性はモデルケースで検討され、Capex6万円/kWh・10円/ΔkW・30分・10年約定でIRR10.3%と試算、上限価格を19.51円から一定程度引き下げても事業継続に大きな悪影響はないとされた。系統用蓄電池の調整力収益に直結するため、事業者は約定機会と単価の前提を見直した収益モデルの再設計が必要である。
編集体制
執筆
BESSNEWS編集部
系統用蓄電池の制度・市場・ファイナンスを一次資料に基づき解説する専門編集チーム。
監修
BESS NEWS編集長
系統用蓄電池の制度・電力市場を専門とする社内専門家。本記事の制度記述・数値を確認。
出典(一次情報)
- 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会『第二十三次中間とりまとめ』(令和8年3月、全44頁)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/ - 保存済み一次資料PDF:02.04_蓄電池情報/02_政策・制度(経産省・エネ庁・監視委)/総合資源エネルギー調査会/20260313_総合エネ調_次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会制度検討作業部会第二十三次中間とりまとめ.pdf
本記事は2026年3月13日公表の一次資料のみに基づいています(対象日より後の情報は含みません)。制度内容は今後の審議で変更される可能性があります。
出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/institutional/proffessional/4609403102001/
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