櫻貿易株式会社
制度・政策・審議会上級

電力の“取引所”を法律で組み替える ― 電気事業法改正案が中長期・需給調整市場と蓄電池に問うもの

経済産業省は電気事業法の一部を改正する法律案を国会に提出し、2026年3月24日に概要・要綱等を公表した。翌日市場に加え中長期市場・需給調整市場を開設する卸電力取引所を経産大臣が指定・監督する規定を新設し、大規模送電線・大規模電源の整備促進も措置する。系統用蓄電池が稼ぐ市場の土台を法律で再編する改正である。

このページの要点

  1. 経済産業省が電気事業法の一部を改正する法律案を国会提出。2026年3月24日付で概要・要綱・新旧対照表・参照条文・法律案及び理由を公表した。
  2. 現行の翌日市場に加え、中長期市場(翌々日以降の将来の電力取引)と需給調整市場(調整力の取引)を開設する卸電力取引所を経産大臣が指定・監督できるものとし、卸取引の活性化と市場運営の健全性を確保する。
  3. あわせて大規模送電線・大規模電源の整備促進(広域機関による資金貸付・財投活用、値差収益の国庫納付)、小売登録取消事由の追加、太陽光発電設備の安全性向上を措置。公布から9月以内の政令指定日に一部を除き施行。

出典:経済産業省 電気事業法の一部を改正する法律案(概要・要綱・法律案及び理由、2026年3月24日)。

要旨 ― ひと言でいえば

電力の卸売を売買する「取引所」のライセンス制度を作り変える法改正である。翌日市場中心だった卸売に、数日先〜将来の電気を売買する中長期市場と、需給バランス調整用の電気を売買する需給調整市場を、国が監督する「指定取引所」として正式に位置づけ、蓄電池が稼ぐ場の土台そのものを法律で組み替える。

目次

  1. 電気事業法改正案の全体像(市場・系統・安全の3本柱)
  2. 中長期市場・需給調整市場の取引所指定が蓄電池の収益基盤に与える意味
  3. 大規模送電線・大規模電源の整備促進と連系・アービトラージへの影響
  4. よくある質問(Q&A)
  5. 編集部の見立て(独自分析)
  6. 出典(一次情報)

電気事業法改正案の全体像(市場・系統・安全の3本柱)

改正案は「市場の活性化」「系統・電源の整備促進」「設備の安全性向上」という3本柱で構成される。

図1:電気事業法改正案の3本柱 ― 市場の活性化・系統と電源の整備促進・設備の安全性向上

電気事業法改正案の3本柱として市場の活性化、系統・電源の整備促進、設備の安全性向上を示す図

出典:経済産業省 電気事業法の一部を改正する法律案 概要・要綱(2026年3月24日)。法案内容は今後の審議で変更される可能性がある。

経済産業省は電気事業法の一部を改正する法律案を国会に提出し、2026年3月24日に概要・要綱・新旧対照表・参照条文・法律案及び理由を公表した。背景には、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化によるエネルギー情勢の変化と、DX・GXの進展による国内電力需要の増加がある。電力の安定供給確保とエネルギー安全保障の推進を目的に、次の3つの柱が置かれた。

系統用蓄電池(BESS)にとって特に重いのは、①の市場と②の系統である。蓄電池の主要収益源である需給調整市場・将来の電力取引の制度的位置づけが再編され、大規模蓄電所の連系環境に関わる系統整備の枠組みも用意されるためだ。

中長期市場・需給調整市場の取引所指定が蓄電池の収益基盤に与える意味

蓄電池が入札する市場そのものが、国の監督下にある「指定取引所」として法的に定義し直される。

図2:指定対象となる卸電力取引所の3類型 ― 短期・中長期・需給調整(第97条〜第99条の22関係)

卸電力取引所の3類型のうち中長期と需給調整が新たに経産大臣の指定対象へ加わることを示す図

出典:経済産業省 電気事業法の一部を改正する法律案 要綱(2026年3月24日)。

改正案は、卸電力取引所を3類型に整理し、それぞれについて経済産業大臣の指定等に関する規定を整備する(第97条〜第99条の22関係)。現行の翌日市場等を扱う短期卸電力取引所に加え、中長期市場等を扱う中長期卸電力取引所、需給調整市場等を扱う需給調整卸電力取引所を指定対象に加える

ねらいは、市場運営の健全性を確保しつつ電力卸取引を活性化することにある。系統用蓄電池は需給調整市場での調整力提供や、時間差の価格差を取りにいく取引で収益を上げる。その市場が指定取引所として経産大臣の監督下に置かれることは、制度的な安定性・透明性を高める一方、取引所運営ルールの監督強化が入札・約定の前提になることを意味する。

一次資料の記載(要旨)

電力取引の促進として、現行の翌日市場に加え、中長期市場(翌々日以降の将来の電力取引)や需給調整市場(需給バランスを一致させるための調整力の取引)を開設する各卸電力取引所を経産大臣が指定・監督できるものとし、市場運営の健全性を確保することで電力卸取引の活性化を図る。あわせて小売電気事業の登録取消事由に、正当な理由なく1年以上引き続き休止したとき等を追加する。

— 電気事業法の一部を改正する法律案 概要・要綱

大規模送電線・大規模電源の整備促進と連系・アービトラージへの影響

系統整備の資金供給と値差収益の使い道が制度化され、地域間連系の拡充に向かう。

第2の柱は、大規模送電線・大規模電源の整備促進である。経済産業大臣が一般送配電事業者等の基幹送変電設備整備等計画や大規模発電事業者の発電等用電気工作物整備等計画を認定し、電力広域的運営推進機関(広域機関)が整備等に必要な資金を貸し付ける(財政投融資等を活用)。広域での電力取引で生じる値差収益は、エネルギー対策特別会計の電源開発促進勘定に納付され、地域間・地域内送電線の整備等に活用される(第99条の8関係)。

大規模電源については、発電等用電気工作物整備等計画の認定と広域機関の資金貸付に加え、大規模発電等用電気工作物の休廃止時には一般送配電事業者等との事前協議が義務化される(第27条の28の2関係)。供給力の急減を抑制する制度である。

これらは系統用蓄電池の連系環境とアービトラージ環境に直結する。広域機関の資金貸付と値差収益の送電線整備活用は、地域間連系線の増強を後押しし、エリア間価格差を利用する蓄電池の収益機会に中長期で影響する。大規模蓄電所の連系を検討する事業者は、整備等計画の認定・資金貸付スキームと自社連系計画との整合を確認する必要がある。

実務チェックリスト

  • 蓄電池事業者・アグリゲーターは、中長期市場・需給調整市場の卸電力取引所の指定・監督規定の詳細(指定要件・取引規程)を、国会審議・政省令検討の動向とともにフォローする。
  • 大規模蓄電所の連系を検討する事業者は、基幹送変電設備整備等計画の認定・広域機関の資金貸付スキームと自社連系計画の整合を確認する。
  • 値差収益の国庫納付・送電線整備活用が地域間連系線の増強に与える影響を、エリア戦略・アービトラージ収益試算に織り込む。

読者別の緊急度

初級(投資家・土地オーナー)3/5

蓄電池の市場制度の方向性を規定する法改正として今月中に把握しておきたい。

中級(建設・メーカー・設計)3/5

市場参加の前提となる取引所制度の再編を今月中に確認すべき。

上級(事業者・アグリゲーター)5/5

収益基盤の市場制度を再編する法律案で、審議動向を含め絶対に今押さえるべき。

よくある質問(Q&A)

電気事業法改正案はいつ公表されましたか?

2026年3月24日付で、法律案の概要・要綱・新旧対照表・参照条文・法律案及び理由が公表されました。国会に提出された電気事業法の一部を改正する法律案です。

卸電力取引所の指定とは何ですか?

現行の翌日市場に加え、中長期市場(翌々日以降の将来の電力取引)と需給調整市場(需給バランスを一致させる調整力の取引)を開設する各卸電力取引所を、経済産業大臣が指定・監督できるものとする規定です。市場運営の健全性を確保し、電力卸取引の活性化を図ることが目的です。

改正法の施行はいつですか?

施行期日は一部を除き、公布日から起算して9月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。

蓄電池事業への影響は何ですか?

系統用蓄電池の主要収益源である需給調整市場・将来の電力取引が、指定卸電力取引所として経済産業大臣の監督下に置かれます。制度的な安定性・透明性が高まる一方、取引所運営ルールの監督強化が入札・約定の前提となります。

大規模送電線・大規模電源の整備促進とは何ですか?

経済産業大臣が基幹送変電設備整備等計画・発電等用電気工作物整備等計画を認定し、電力広域的運営推進機関(広域機関)が整備等に必要な資金を貸し付けます(財政投融資等を活用)。広域での電力取引で生じる値差収益をエネルギー対策特別会計の電源開発促進勘定に納付し送電線整備等に活用します。大規模電源の休廃止時には一般送配電事業者等との事前協議が義務化されます。

小売電気事業に関する改正はありますか?

小売電気事業の登録取消事由に、正当な理由なく1年以上引き続き休止したとき等が追加されます。

編集部の見立て(独自分析)

独自分析

  • 需給調整市場・中長期市場を開設する取引所を経産大臣の指定・監督対象とすることで、蓄電池が参加する市場の運営健全性・継続性が法的に担保される一方、取引所運営ルールの監督強化が入札・約定の前提となる。
  • 広域機関による基幹送変電・大規模電源整備への資金貸付(財投活用)と値差収益の国庫納付・送電線整備活用は、地域間連系線の増強を後押しし、エリア間価格差を利用する蓄電池のアービトラージ環境に中長期で影響する。
  • 大規模発電等用電気工作物の休廃止時の事前協議義務は供給力の急減を抑制する制度であり、需給ひっ迫局面の頻度・価格スパイクの予見可能性に関わる。

※本ブロックは一次資料の事実に基づく編集部の見立てであり、確定情報ではありません(2026年7月時点)。法案内容は今後の国会審議で変更される可能性があります。

この記事のまとめ

電気事業法の一部を改正する法律案(2026年3月24日公表)は、翌日市場に加え中長期市場・需給調整市場を開設する卸電力取引所を経産大臣が指定・監督する規定を新設し、大規模送電線・大規模電源の整備促進(広域機関の資金貸付・財投活用、値差収益の国庫納付)、小売登録取消事由の追加、太陽光設備の安全性向上を措置する。系統用蓄電池の取引基盤である需給調整市場・将来の電力取引が指定取引所として法的に位置づけられ、系統整備の資金供給枠組みも整う。施行は一部を除き公布から9月以内の政令指定日で、市場参加者は指定要件・取引規程と連系計画の整合を早期に確認する必要がある。

編集体制

執筆

BESSNEWS編集部

系統用蓄電池の制度・市場・ファイナンスを一次資料に基づき解説する専門編集チーム。

監修

BESS NEWS編集長

系統用蓄電池の制度・電力市場を専門とする社内専門家。本記事の制度記述・数値を確認。

出典(一次情報)

  1. 経済産業省 電気事業法の一部を改正する法律案(概要・要綱・新旧対照表・参照条文・法律案及び理由、2026年3月24日)
    https://www.meti.go.jp/
  2. 保存済み一次資料PDF:02.04_蓄電池情報/02_政策・制度(経産省・エネ庁・監視委)/経産省/20260324_経産省_法律案概要(PDF形式:372KB).pdf

本記事は2026年3月24日公表の一次資料のみに基づいています(対象日より後の情報は含みません)。個別の条番号・具体の適用要件は一次資料を参照してください。法案内容は今後の審議で変更される可能性があります。

出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/institutional/proffessional/4610503102001/

本記事は BESS media の転載条件(出典明記のうえ全文転載可)にもとづき転載しています。 記事内容の著作権は転載元に帰属します。

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