櫻貿易株式会社
市場・価格上級

精算の前提は、この覚書 ― 起動費他事後精算に関する契約書のひな形(全13ページ)を読み解く

需給調整市場で起動費等の事後精算を希望する取引会員が、属地の送配電事業者と締結する『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』のひな形(2026年4月1日以降版・全13ページ)をEPRXが公開している。不落ブロック・約定間不落・起動費未回収分相当額・経済差替え・等分メリット単価分など30の用語を定義し、精算対象と提出様式を規定する契約実務の一次資料である。

このページの要点

  1. EPRXが公開する、需給調整市場で起動費等の事後精算を希望する取引会員(甲)が属地送配電事業者(乙)と締結する覚書のひな形(2026年4月1日以降版・全13ページ)。
  2. 取引規程第62条(細目的事項)(3)(4)(5)に該当する場合の取扱いを定め、不落ブロック・約定間不落ブロック・起動費未回収分相当額・最低出力までの発電電力量の機会費用・停止再起動費用・経済差替え・等分メリット単価分等の30項目を定義する。
  3. 起動費等の事後精算の対象、加重平均単価入札時の返還、経済差替情報・経済差替理由書等の提出様式を規定し、原契約および取引規程(需給調整市場)に準拠する。

出典:EPRX『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』ひな形(2026年4月1日以降版)。

要旨 ― ひと言でいえば

起動費の事後精算という「後払い精算」を利用するために、蓄電池等の事業者と送配電会社が交わす契約書のテンプレートである。どのような条件でいくら精算されるか、提出書類は何かを、一語一句の定義で規定した実務文書といえる。

目次

  1. 起動費事後精算の覚書とは|取引規程第62条との関係
  2. 覚書が定義する30の用語と精算対象
  3. 加重平均・経済差替の精算と提出様式の実務
  4. よくある質問(Q&A)
  5. 編集部の見立て(独自分析)
  6. 出典(一次情報)

起動費事後精算の覚書とは|取引規程第62条との関係

原契約に付帯して締結する覚書であり、事後精算を受けるための必須契約書である。

本覚書は、取引会員(甲)が属地送配電事業者(乙)と、需給調整市場に関する契約書(原契約)に付帯して締結するものだ。適用根拠は取引規程(需給調整市場)第62条(細目的事項)の(3)(4)もしくは(5)のいずれかまたは複数に該当する場合で、その取扱いを定める。覚書の用語以外は原契約および取引規程(需給調整市場)に準拠する。

起動費等の事後精算を受けるための必須契約書であり、ひな形を読み込まずに精算を申請することは不可能である。蓄電池を含む調整力リソースが起動費・機会費用を回収できるかは、本覚書の締結と用語定義の正確な理解にかかっている。

覚書が定義する30の用語と精算対象

第1条の用語定義は30項目。定義の理解が精算実務の成否を分ける。

図1:覚書第1条が定義する30の用語 ― 不落の3類型・精算対象の費用・加重平均と経済差替え

起動費精算覚書の第1条が定義する不落ブロックの3類型と起動費未回収分相当額等の精算対象を整理した図

出典:EPRX『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』ひな形(2026年4月1日以降版)第1条。

覚書の第1条は30の用語を定義する。精算実務に直結する主要な定義は次のとおりである。

用語解説(主要定義の抜粋)

用語定義(要旨)
不落ブロック約定希望ΔkWの全部が不約定となったブロック。
一部不落ブロック約定希望ΔkWの一部が不約定となったブロック。
約定間不落ブロック約定ブロックに挟まれた不落ブロック。
起動費未回収分相当額不落により回収できなかった起動費の相当額。
最低出力までの発電電力量の機会費用卸電力市場価格(実績)と限界費用の差額。
停止・再起動にかかる費用約定間不落時に停止・再起動した場合の費用。
経済差替え約定電源をより経済的な電源に差し替える行為(差替後加重平均価格・差替前/差替後ΔkW単価等を併せて定義)。
等分メリット単価分差替後ΔkW単価と差替後電源ΔkW単価(本来)の差額を2で除した単価(小数点第3位四捨五入)。

このほか、連続入札単位、起動供出機および持ち下げ供出機の加重平均価格、加重平均起動費未回収分相当額、最低出力までの発電電力量の加重平均機会費用相当額(起動供出機分・持ち下げ供出機分)、加重平均起動費返還単価分等が定義されている。定義の全文は一次資料参照。

一次資料の記載(要旨)

第2条以降で起動費等の事後精算の対象、加重平均単価で入札した場合の起動費の返還、経済差替時の事後精算を定め、不約定単価内訳兼起動費事後精算情報・経済差替情報(経済差替理由書)・約定単価内訳兼返還情報等の提出様式を規定する。本覚書の用語以外は原契約および取引規程(需給調整市場)に準拠する。

— EPRX『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』ひな形(要旨)

加重平均・経済差替の精算と提出様式の実務

複雑なのは加重平均入札と経済差替えの精算。算定式を社内システムに正確に落とし込む必要がある。

図2:等分メリット単価分の算定と3系統の提出様式 ― 加重平均入札時の返還まで

起動費精算覚書が定める等分メリット単価分の算定式と不約定単価内訳兼起動費事後精算情報等の提出様式の図

出典:EPRX『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』ひな形(2026年4月1日以降版)第1条・第2条以降。

等分メリット単価分 ― 利益折半の算定式

経済差替えで生じた利益の精算単価である等分メリット単価分は、差替後ΔkW単価と差替後電源ΔkW単価(本来)の差額を2で除して算定する(小数点第3位四捨五入)。差額の2分の1、すなわち事業者とTSOで利益を折半する設計である。

提出様式は3系統

精算の申請・返還には、覚書が規定する提出様式を用いる。

精算の申請

不約定単価内訳兼起動費事後精算情報様式:不落ブロックの起動費等の精算に用いる。

経済差替・返還

経済差替情報(経済差替理由書)および約定単価内訳兼返還情報様式:経済差替時の精算・加重平均単価入札時の返還に用いる。

  • 起動費等の事後精算を希望する蓄電池・調整力事業者は、本覚書ひな形の30の用語定義を精読し、原契約に付帯して属地TSOと締結する。
  • 加重平均単価入札・経済差替えを行う場合は、加重平均起動費未回収分相当額・等分メリット単価分の算定式を社内精算システムに実装する。
  • 不約定単価内訳兼起動費事後精算情報様式・経済差替理由書等の提出様式と提出期限を業務フローに組み込む。

読者別の緊急度

初級(投資家・土地オーナー)1/5

投資家には直接関係が薄い契約書ひな形。

中級(建設・メーカー・設計)3/5

精算システム・EMS実装側は算定式を今月中に確認すべき。

上級(事業者・アグリゲーター)5/5

事後精算を希望する事業者は締結必須の契約書で、絶対に押さえるべき。

よくある質問(Q&A)

この覚書は誰と誰が締結するものですか?

取引会員(甲)と属地送配電事業者(乙)が、需給調整市場に関する契約書(原契約)に付帯して締結します。取引規程(需給調整市場)第62条(細目的事項)(3)(4)もしくは(5)のいずれかまたは複数に該当する場合の取扱いを定めます。

覚書を締結しないと事後精算は受けられませんか?

本覚書は起動費等の事後精算を受けるための必須契約書であり、ひな形を読み込まずに精算を申請することは不可能とされる位置づけです。起動費・機会費用を回収できるかは本覚書の締結と用語定義の正確な理解にかかっています。

等分メリット単価分とは何ですか?

差替後ΔkW単価と差替後電源ΔkW単価(本来)の差額を2で除した単価で、小数点第3位を四捨五入します。経済差替えで生じた利益を事業者とTSOで折半する配分ルールを示す定義です。

機会費用はどのように算定されますか?

覚書の定義では、最低出力までの発電電力量の機会費用は卸電力市場価格(実績)と限界費用の差額として規定されています。

精算に必要な提出様式は何ですか?

不約定単価内訳兼起動費事後精算情報様式、経済差替情報(経済差替理由書)、約定単価内訳兼返還情報様式が規定されています。

覚書の内容はTSOごとに交渉できますか?

覚書は全国統一のひな形(契約体系資料で『ひな形統一』と明記)であり、属地TSOごとの個別交渉余地は限定的です。定義の理解が精算実務の成否を分けます。

編集部の見立て(独自分析)

独自分析

  • 覚書は全国統一のひな形(契約体系資料で「ひな形統一」と明記)であり、属地TSOごとの個別交渉余地は限定的で、定義の理解が精算実務の成否を分ける
  • 等分メリット単価分は差替後ΔkW単価と本来単価の差額の2分の1(事業者とTSOで折半)という設計で、経済差替えの利益配分ルールが明確化されている。
  • 機会費用の算定にスポット市場価格(実績)を用いる点が、入札時の予想価格と実績の乖離リスクを精算側に織り込む構造を示している。

※本ブロックは一次資料の事実に基づく編集部の見立てであり、確定情報ではありません(2026年7月時点)。

この記事のまとめ

EPRXが公開する『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』ひな形(2026年4月1日以降版・全13ページ)は、起動費等の事後精算を受けるために取引会員(甲)が属地送配電事業者(乙)と原契約に付帯して締結する必須契約書である。適用根拠は取引規程第62条(細目的事項)(3)(4)(5)。第1条で不落ブロック・約定間不落ブロック・起動費未回収分相当額・最低出力までの機会費用(卸電力市場価格(実績)と限界費用の差額)・経済差替え・等分メリット単価分(差額を2で除した単価・小数点第3位四捨五入)など30の用語を定義し、第2条以降で精算対象・加重平均単価入札時の返還・経済差替時の事後精算と3系統の提出様式を規定する。複数商品に同時入札する蓄電池・アグリゲーターは、算定式を精算実務に正確に落とし込む必要がある。

編集体制

執筆

BESSNEWS編集部

系統用蓄電池の制度・市場・ファイナンスを一次資料に基づき解説する専門編集チーム。

監修

BESS NEWS編集長

系統用蓄電池の制度・系統運用を専門とする社内専門家。本記事の制度記述・数値を確認。

出典(一次情報)

  1. 電力需給調整力取引所(EPRX)『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書(2026年4月1日以降)』ひな形(全13ページ)
    https://www.eprx.or.jp/
  2. 保存済み一次資料PDF:02.04_蓄電池情報/01_市場制度(OCCTO・EPRX・JEPX)/EPRX/20260401_EPRX_需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書(202641以降)[223.3KB].pdf

本記事は2026年4月1日以降版として公開された一次資料のみに基づいています(対象日より後の情報は含みません)。用語定義の全文・締結手続は必ず一次資料を参照してください。

出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/market/proffessional/4611303001002/

本記事は BESS media の転載条件(出典明記のうえ全文転載可)にもとづき転載しています。 記事内容の著作権は転載元に帰属します。

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