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市場・価格上級

起動費は“後から精算”へ ― 需給調整市場の事後精算ルールを説明資料53ページから読み解く

電力需給調整力取引所(EPRX)は、需給調整市場における起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算の説明資料(全53ページ)を2026年4月1日付で修正した。不落ブロックの起動費・最低出力までの機会費用・停止再起動費用を属地TSOと事後精算する運用ルールは2025年4月1日実需給分から適用されており、今回の修正で経済差替分の精算と精算額の公表(第19項)が新たに加わった。

このページの要点

  1. EPRXが需給調整市場における起動費等の事後精算ルールを説明する資料(全53ページ)。第1回(2024年9月30日)・第3回(2024年11月15日)制度設計・監視専門会合の整理を反映し、2025年4月1日実需給分から適用、2026年4月1日に経済差替分の精算等を追加修正した。
  2. 起動費をΔkW価格に含めて入札し不落(一部不落含む)となったブロックの起動費未回収分相当額・最低出力までの発電電力量の機会費用・停止・再起動にかかる費用を、属地TSOと締結する覚書に基づき事後精算する。
  3. 加重平均単価(起動供出機・持ち下げ供出機)で入札した場合の返還、経済差替えで生じた等分メリット単価分の精算も対象。経済性判断の妥当性はTSOが確認し、必要に応じ監視等委員会が事後監視する。

出典:EPRX『起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について』(2026年4月1日修正版)。

要旨 ― ひと言でいえば

調整力をいつでも出せるように待機しておく経費(起動費)を入札価格に上乗せして回収しようとし、売れ残った(不落となった)分を、後から送配電会社が実費精算する仕組みの公式説明資料である。待機コストの回収ルールとして、調整力リソースの収益計算の前提になる。

目次

  1. 起動費等の事後精算とは|なぜΔkW価格に計上せず後から精算するのか
  2. 精算対象の3項目(起動費・機会費用・停止再起動費用)と発動条件
  3. 加重平均入札・経済差替の扱いと覚書締結の実務
  4. よくある質問(Q&A)
  5. 編集部の見立て(独自分析)
  6. 出典(一次情報)

起動費等の事後精算とは|なぜΔkW価格に計上せず後から精算するのか

起動費を「将来のΔkW価格」に計上させず、実費を後から精算する――需給調整市場の価格形成を透明化する運用ルールである。

需給調整市場に調整力(ΔkW)を供出する火力や蓄電池などのリソースには、供出のための待機コスト、すなわち起動費・最低出力までの発電電力量の機会費用・停止再起動費用が発生し得る。本説明資料は、これらをΔkW価格に計上せず、属地の一般送配電事業者(TSO)と事後精算する運用ルールを体系的に解説した一次資料である(2025年4月1日策定・2026年4月1日修正・全53ページ)。

制度の出発点は制度設計・監視専門会合の整理にある。第1回(2024年9月30日)で起動費を将来のΔkW価格に計上せず事後精算する運用ルールが、第3回(2024年11月15日)で経済差替によって生じた利益を精算する運用ルールが整理され、これを受けてEPRXが対象範囲・精算方法を解説している。

一次資料の記載(要旨)

第1回制度設計・監視専門会合(2024年9月30日)で起動費を将来のΔkW価格に計上せず事後精算する運用ルールが、第3回(2024年11月15日)で経済差替によって生じた利益を精算する運用ルールが整理された。本取扱いは2025年4月1日実需給分から適用する。

— EPRX『起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について』(要旨)

系統用蓄電池は起動費の概念が火力と異なるものの、複合市場商品・三次調整力②への按分入札や加重平均単価の扱いは、複数商品に跨って入札するアグリゲーターの最適入札ロジックに影響する。事後精算の可否は、入札価格の付け方(起動費を価格に含めるか否か)と収益・リスク計算の前提を直接左右する

精算対象の3項目(起動費・機会費用・停止再起動費用)と発動条件

精算されるのは3項目。ΔkW単価に計上していない費用は対象外となる。

図1:事後精算の対象3項目(起動費未回収分相当額・最低出力までの機会費用・停止再起動費用)

需給調整市場の起動費等事後精算の対象3項目と、最低出力待機・停止再起動それぞれの精算内容を示す図

出典:EPRX『起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について』(2026年4月1日修正版・全53ページ)。

事後精算の対象は次の3項目である。いずれもΔkW単価にこれらを計上していない場合は対象外となる点に注意が必要だ。

精算対象内容
(1) 起動費未回収分相当額起動費をΔkW価格に含めて入札し、不落(一部不落含む)となったブロックの未回収分。加重平均入札時は「加重平均起動費未回収分相当額」として扱う。
(2) 最低出力までの発電電力量の機会費用卸電力市場価格(予想)と限界費用の差額。
(3) 停止・再起動にかかる費用約定間不落ブロックにおいて停止・再起動した場合の費用。

入札時は起動費1回分を10コマに等分して入札し、不約定(約定間不落)となったブロックの起動費と機会費用が事後精算の対象となり得る。約定間不落ブロックでリソースがどう対応したかにより、精算内容は次のように分岐する。

一次資料の記載(要旨)

約定間不落ブロックで最低出力待機した場合は起動費+(A)最低出力までの機会費用を、停止・再起動した場合は起動費+(A)と(B)停止・再起動にかかる費用の経済的な方を精算する。

— EPRX『起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について』(要旨)

加重平均入札・経済差替の扱いと覚書締結の実務

精算を受けるには属地TSO(沖縄電力を除く)との覚書締結が必須。2026年4月修正で経済差替分の精算が加わった。

図2:加重平均単価入札の返還・経済差替時の事後精算の追加と覚書締結の前提

起動費等事後精算の加重平均単価入札の返還、経済差替時の精算追加、属地TSOとの覚書締結が前提であることを示す図

出典:EPRX『起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について』(2026年4月1日修正版)。

加重平均単価入札の返還

起動供出機・持ち下げ供出機の加重平均単価で入札した場合は、加重平均起動費未回収分相当額・加重平均機会費用相当額として精算される。複合市場商品と三次調整力②へ按分入札し、一方の商品区分で全ブロック不落となった場合も精算対象に含まれる。複数商品に同時入札する蓄電池・アグリゲーターにとって重要な射程である。

2026年4月修正:経済差替時の事後精算

2026年4月1日の修正では、経済差替時の事後精算(等分メリット単価分)の整理・業務フロー精算額の公表(第19項)が新規追加された。経済差替えで生じた利益の精算が対象となり、経済性判断の妥当性は一般送配電事業者が確認し、必要に応じ電力・ガス取引監視等委員会が事後監視を行う。

覚書締結が精算の前提

一次資料の記載(要旨)

精算を希望する取引会員は、あらかじめ属地TSO(沖縄電力を除く)と『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』を締結する必要がある。

— EPRX『起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について』(要旨)

覚書が未締結だと、不落時の起動費は回収不能となる。覚書には精算対象の用語定義や提出様式(経済差替理由書等)が規定されており、精算実務の設計はこのひな形の読み込みが前提になる。

  • 起動費等の事後精算を希望する蓄電池・調整力事業者は、属地TSO(沖縄電力除く)と『起動費他事後精算に関する契約書の覚書』を締結する。
  • 起動費・最低出力機会費用をΔkW単価へ計上するか否かと、不落時の事後精算可否を織り込んで入札価格・収益モデルを設計する。
  • 2026年4月新規追加の経済差替時の事後精算(等分メリット単価分)の業務フロー・提出様式(経済差替理由書)を確認し、社内の精算実務に反映する。

読者別の緊急度

初級(投資家・土地オーナー)2/5

投資家には直接の判断材料ではないが、調整力収益の構造理解に資する。

中級(建設・メーカー・設計)3/5

EMS・入札ロジック設計側は起動費計上と精算条件を今月中に確認すべき。

上級(事業者・アグリゲーター)5/5

需給調整市場に入札する事業者は覚書締結と入札価格設計に直結し、絶対に押さえるべき。

よくある質問(Q&A)

起動費等の事後精算の対象は何ですか?

(1)起動費未回収分相当額、(2)最低出力までの発電電力量の機会費用(卸電力市場価格(予想)と限界費用の差額)、(3)停止・再起動にかかる費用の3項目です。ΔkW単価にこれらを計上していない場合は対象外です。

事後精算はいつの実需給分から適用されていますか?

2025年4月1日実需給分から適用されています。2026年4月1日の修正では、経済差替時の事後精算と精算額の公表(第19項)が新規追加されました。

精算を受けるにはどのような手続きが必要ですか?

精算を希望する取引会員は、あらかじめ属地TSO(沖縄電力を除く)と『需給調整市場(起動費他事後精算)に関する契約書の覚書』を締結する必要があります。未締結の場合、不落時の起動費は回収できません。

不落となったブロックはどのように精算されますか?

入札時は起動費1回分を10コマに等分して入札します。約定間不落ブロックで最低出力待機した場合は起動費+(A)最低出力までの機会費用を、停止・再起動した場合は起動費+(A)と(B)停止・再起動にかかる費用の経済的な方を精算します。

加重平均単価で入札した場合はどうなりますか?

起動供出機・持ち下げ供出機の加重平均単価で入札した場合は、加重平均起動費未回収分相当額・加重平均機会費用相当額として精算されます。複合市場商品と三次調整力②へ按分入札し、一方の商品区分で全ブロック不落となった場合も含まれます。

精算の妥当性は誰が確認しますか?

経済性判断の妥当性は一般送配電事業者が確認し、必要に応じて電力・ガス取引監視等委員会が事後監視を行います。

編集部の見立て(独自分析)

独自分析

  • 起動費を将来のΔkW価格に計上せず事後精算とすることで、入札価格の透明性を確保しつつ不落時の起動費回収を担保する設計であり、入札価格=純粋なΔkW価値に近づける狙いがあると読める。
  • 約定間不落ブロックで「最低出力待機(A)」と「停止・再起動(B)」の経済的な方を精算する仕組みは、リソースの運転継続/停止判断の経済合理性をTSOが事後確認する点で運用負荷を伴う
  • 複合市場商品と三次調整力②への按分入札で一方が全ブロック不落となるケースまで精算対象に含めており、複数商品同時入札を行う蓄電池・アグリゲーターの精算実務が複雑化する

※本ブロックは一次資料の事実に基づく編集部の見立てであり、確定情報ではありません(2026年7月時点)。

この記事のまとめ

EPRXの説明資料(全53ページ・2026年4月1日修正版)は、需給調整市場の起動費等を属地TSOと事後精算する運用ルールを体系化した一次資料である。精算対象は起動費未回収分相当額・最低出力までの機会費用・停止再起動費用の3項目で、起動費1回分を10コマに等分して入札し、約定間不落ブロックの対応(最低出力待機か停止・再起動か)に応じて精算内容が決まる。加重平均単価入札の返還、経済差替えで生じた等分メリット単価分の精算も対象で、2025年4月1日実需給分から適用。精算には属地TSO(沖縄電力除く)との覚書締結が前提となり、経済性判断の妥当性はTSOが確認、必要に応じ監視等委員会が事後監視する。蓄電池の入札価格設計と収益回収に直結する核心的ルールである。

編集体制

執筆

BESSNEWS編集部

系統用蓄電池の制度・市場・ファイナンスを一次資料に基づき解説する専門編集チーム。

監修

BESS NEWS編集長

系統用蓄電池の制度・系統運用を専門とする社内専門家。本記事の制度記述・数値を確認。

出典(一次情報)

  1. 電力需給調整力取引所(EPRX)『【説明資料】起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について』(2025年4月1日策定・2026年4月1日修正・全53ページ)
    https://www.eprx.or.jp/
  2. 保存済み一次資料PDF:02.04_蓄電池情報/01_市場制度(OCCTO・EPRX・JEPX)/EPRX/20260401_EPRX_【説明資料】起動費等および経済差替時の扱いに関する事後精算について[2.4MB].pdf

本記事は2026年4月1日公表(修正)の一次資料のみに基づいています(対象日より後の情報は含みません)。精算の詳細条件は必ず一次資料を参照してください。

出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/market/proffessional/4611303001003/

本記事は BESS media の転載条件(出典明記のうえ全文転載可)にもとづき転載しています。 記事内容の著作権は転載元に帰属します。

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