セルの出どころで当落が決まる——長期脱炭素第4回、認定メーカー優先約定の読み方
長期脱炭素電源オークション第4回で、蓄電池の入札に技術要件でも価格要件でもない新しい関門が加わった。どのメーカーのセルを積むか、である。
資源エネルギー庁は2026年8月31日に確定した第4回の制度見直しで、経済安全保障推進法に基づく供給確保計画の認定を受けたメーカーが製造するセルを使用する蓄電池の案件を、優先的に約定することとした。同時に、第3回入札で導入したセル製造国30%制限ルールは、リチウムイオン蓄電池については適用しないこととされた。
締めるところと緩めるところが同時に動いている。前回の対応をそのまま踏襲すると、第4回ではかえって不利になりうる。
目次- 要点まとめ
- 「優先約定」とは何か
- 優先約定の順序
- なぜ製造国30%制限をやめたのか
- 自社セルが対象かを判定する3ステップ
- セル変更が波及する範囲
- 募集上限40万kWと重なると何が起きるか
- よくある質問
- 編集部の見立て
- 30秒リキャップ
- 出典
要点まとめ
第4回の落札順は、まず認定メーカー製セルの案件を価格順に並べて枠を埋め、それでも余ったら非認定案件を価格順に落とす、という二段構えになる。
- 対象は経済安全保障推進法に基づき特定重要物資に指定されている蓄電池について、供給確保計画の認定を受けているメーカーが製造するセル。当該メーカーが株式・持分50%超の支配力を持つ国内外の子会社・孫会社を含む。
- 優先約定の対象はリチウムイオン蓄電池のみ。経産省が策定した「蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針」がリチウムイオン蓄電池のみを対象としているためである。
- これに伴い、第3回で導入したセル製造国30%制限ルールは、リチウムイオン蓄電池については適用しない。
第4回で新しく入った「優先約定」とは何か
要点まとめ 判定されるのは資本系列、製造地ではない
第3回入札で蓄電池に措置されていたのは、サイバーセキュリティの強化と、セルの供給源の多角化(セル製造国30%制限ルール)の2つだった。第4回では、これに代わる形で事業規律を強化する仕組みが入る。
経済安全保障推進法に基づき特定重要物資に指定されている蓄電池について、供給確保計画の認定を受けているメーカー(当該メーカーが株式・持分50%超の支配力を持つ国内外の子会社・孫会社を含む)が製造するセルを使用する蓄電池の案件を優先的に約定する。
解説:判定の対象は「製造された場所」ではなく「製造したメーカーの資本系列」である。認定メーカーの海外工場で製造されたセルも、資本関係が50%超であれば対象になりうる。
「経済安全保障推進法」の正式名称は、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)。同法に基づく特定重要物資として蓄電池が指定されており、経産省が策定した「蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針」のもとで供給確保計画の認定制度が運用されている。
第4回のオークションは、この既存の認定制度を入札の約定順序に接続した、という構造になる。
優先約定の順序:認定案件→非認定案件、それぞれ価格順
誤解されやすいのは「認定さえ取れば高値でも通る」という読み方である。資料が定めているのは、そういう仕組みではない。
①募集上限の範囲内で「リチウムイオン蓄電池の認定案件」を、価格が低い順に(上限価格以下の範囲で)落札していく。②それだけで募集上限が埋まらない場合に、「リチウムイオン蓄電池の非認定案件」を価格が低い順に落札していく。
解説:価格順の列が2本に分かれ、認定案件の列を先に消化する構造である。認定案件のなかでは価格が低い順に落札されるため、認定は「価格競争を免除するもの」ではなく「価格競争に参加する順番を前に出すもの」にあたる。
| ステップ | 対象 | 並べ方 | 条件 |
|---|---|---|---|
| ① | リチウムイオン蓄電池の認定案件 | 価格が低い順 | 上限価格以下・募集上限の範囲内 |
| ② | リチウムイオン蓄電池の非認定案件 | 価格が低い順 | ①で募集上限が埋まらなかった場合のみ |
したがって非認定案件にとっての勝負どころは「①でどれだけ枠が残るか」であり、これは自社では制御できない変数になる。
なぜ製造国30%制限をやめたのか——「分散したのに特定国メーカーが大宗」
第3回のセル製造国30%制限は、セルの調達先を国単位で分散させる狙いのルールだった。事務局は、その結果をこう評価している。
第3回ではセルの製造国は分散化したと見られる一方、特定国のメーカーが様々な国でセル製造工場を保有していることから、特定国メーカーのセルを採用する蓄電池が大宗を占めたと見られ、引き続きサプライチェーン途絶リスクが高い状況にある。
解説:製造国を分散させても、それらの工場を同じメーカーが持っていれば途絶リスクは分散しない。ルールが意図した効果が出なかった、という自己評価である。
この認識に立って、制度の狙いは製造地の分散からメーカーの資本系列の分散へ移った。そのため国単位の30%制限はリチウムイオン蓄電池について適用をやめ、代わりに資本関係で判定する優先約定を置いた、という流れになる。
実務上、ここが第3回との最大の断絶である。第3回に合わせて「複数国のセルを混載して30%制限をクリアする」設計を組んだ案件は、第4回ではその設計が加点要素にならない。むしろ単一の認定メーカーでセルを統一するほうが有利になる。前回の正解が今回の不正解になっている点は、社内での引き継ぎで最も抜けやすい。
自社セルが対象かを判定する3ステップ(資本関係で見る)
判定は次の順で行う。製造工場の所在地から入ると誤判定するので、資本関係から入る。
- セルを製造した法人を特定する。
調達契約の相手方(商社・パッケージャー)ではなく、セルそのものを製造した法人まで遡る。 - その法人の親会社を辿る。
株式または持分の50%超を保有して支配力を持つ親会社が、蓄電池の供給確保計画の認定を受けているかを確認する。子会社だけでなく孫会社も対象に含まれる。 - 認定の対象物資が蓄電池であることを確認する。
供給確保計画の認定は物資ごとに行われるため、他の特定重要物資での認定では該当しない。
判定に必要なのは、セルメーカーの資本構成を示す書面と、親会社側の認定の事実を示す書面である。どちらも自社では作成できないため、セルメーカーおよび商社への確認依頼が実務の起点になる。
9月17日の制度詳細説明会では、子会社・孫会社経由の認定について「どの書類を」「いつまでに」提出するのかを確認しておきたい。
- 特定重要物資
- 経済安全保障推進法に基づき、国民の生存や国民生活・経済活動に不可欠な物資として指定されるもの。蓄電池が指定されている。
- 供給確保計画の認定
- 特定重要物資について、事業者が作成した安定供給確保のための計画を所管大臣が認定する制度。蓄電池については経産省の「蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針」に基づいて運用される。
- セル製造国30%制限ルール
- 第3回入札で導入された、セルの供給源を国単位で多角化させるための取扱い。第4回ではリチウムイオン蓄電池について適用されない。
セル変更が波及する範囲:BMS・消防設備・UL9540A
自社セルが非認定と判明した場合、選択肢は「そのまま非認定案件として応札する」か「認定メーカー製セルへ変更する」かのいずれかになる。後者を選ぶなら、変更の影響がセル単体にとどまらない点を織り込む必要がある。
セルが変われば、まずBMS(バッテリーマネジメントシステム)の設定が変わる。セルの電圧・温度特性が違えば保護しきい値も充放電の制御も変わるためである。
次に消防設備である。蓄電池を設置する際の消防関係の手続は、採用するセルの仕様を前提に組まれている。セル変更は、この前提の再確認を要求する。
さらにUL9540A(熱暴走の伝播特性に関する試験)の結果も、セル・モジュール・ラック単位で取得されている。セルが変われば当該試験結果はそのまま使えない。
| 変更対象 | 波及先 | 想定される作業 |
|---|---|---|
| セル | BMS | 保護しきい値・充放電制御の再設定 |
| セル | 消防設備 | セル仕様を前提とした手続の再確認 |
| セル | UL9540A | 試験結果の再取得または適用範囲の再確認 |
| セル | EPC契約 | 機器仕様変更に伴う見積・工期の見直し |
9月中に着手しなければ、第4回の応札スケジュールには間に合わない可能性が高い。
募集上限40万kWと重なると何が起きるか
要点まとめ 枠・順序・帰結の3段で見る
この優先約定は、単独で見ると「順番が前になるだけ」の話に見える。しかし第4回では同時に、リチウムイオン蓄電池の募集上限が単独枠40万kWとされ、募集上限を超えた追加の落札がなくなった(この点は別記事で扱う)。
2つを重ねると、優先約定は事実上の当落判定になる。認定メーカー製セルの案件だけで40万kWが埋まれば、非認定案件は価格が最安であっても落札されない。順番の話が、そのまま可否の話に変わる。
つまり第4回では、「応札価格」と「セルの調達元が経済安保推進法の認定メーカーか」が同格の入札要件になったと理解すべきである。価格を1円下げる努力より、セルの供給元を確認する電話1本のほうが当落への影響が大きい局面がありうる。
優先約定はリチウムイオン蓄電池のみが対象である。ナトリウムイオン電池等の非リチウムイオン案件は別区分の募集上限のもとで争うことになり、優先約定の適用外となる。取組方針の対象範囲がリチウムイオン蓄電池に限られているためで、非リチウムイオン技術にとっては「優先されない」と同時に「後回しにもされない」という位置づけになる。
よくある質問
優先約定の対象になるのはどのようなセルですか。経済安全保障推進法に基づき特定重要物資に指定されている蓄電池について、供給確保計画の認定を受けているメーカーが製造するセルです。当該メーカーが株式・持分の50%超の支配力を持つ国内外の子会社・孫会社が製造するセルも含まれます。
認定を受けたメーカーであれば高い価格でも落札されますか。されません。優先約定は、まず募集上限の範囲内で認定案件を価格が低い順に(上限価格以下の範囲で)落札し、それだけで募集上限が埋まらない場合に非認定案件を価格が低い順に落札する仕組みです。認定案件のなかでは価格競争が働くため、認定は価格競争を免除するものではありません。
海外の工場で製造されたセルは対象外になりますか。製造された場所ではなく資本関係で判定されます。供給確保計画の認定を受けたメーカーが株式・持分の50%超の支配力を持つ国内外の子会社・孫会社が製造したセルは対象に含まれるため、海外工場製であっても対象になり得ます。
第3回のセル製造国30%制限はどうなりましたか。リチウムイオン蓄電池については適用しないこととされました。第3回ではセルの製造国は分散化したと見られる一方、特定国のメーカーが様々な国でセル製造工場を保有していることから特定国メーカーのセルを採用する蓄電池が大宗を占めたと見られ、引き続きサプライチェーン途絶リスクが高い状況にあると評価されたためです。
ナトリウムイオン電池など非リチウムイオンの案件も優先約定の対象ですか。対象外です。優先約定するのはリチウムイオン蓄電池のみで、これは経産省が策定した「蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針」がリチウムイオン蓄電池のみを対象としているためです。
セルを変更する場合、どこまで影響しますか。セルの変更はBMSの設定、消防設備に関する手続、UL9540Aの試験結果の再確認に波及します。機器仕様の変更としてEPC契約の見積や工期にも影響するため、応札スケジュールから逆算して早期に着手する必要があります。
編集部の見立て
制度の設計思想が「地理の分散」から「資本の分散」へ移った点が本質である。第3回の30%制限は、地図の上では分散を実現した。それでも事務局が途絶リスクが高いと判断したのは、リスクの単位が国境ではなく企業だったからである。
事業者側にとって難しいのは、この判定基準が自社の努力で動かしにくいことである。価格は設計と調達で下げられるし、デュレーションは設備で作れる。しかし「セルメーカーの親会社が認定を受けているか」は、自社の外側で決まっている事実にすぎない。第4回では、この外部条件が当落を左右する。
裏を返せば、認定メーカーのセルを確保できる調達力そのものが競争優位になる。第4回以降、セル供給契約の交渉は価格と納期だけの話ではなくなる。契約書に「供給確保計画の認定を維持すること」に類する条項を置けるかどうか、といった論点が現実に出てくるだろう。
30秒リキャップ
長期脱炭素電源オークション第4回で、経済安全保障推進法に基づく供給確保計画の認定を受けたメーカー(株式・持分50%超の支配力を持つ国内外の子会社・孫会社を含む)が製造するセルを使う蓄電池案件を優先的に約定することが決まった。順序は、募集上限の範囲内で認定案件を価格が低い順に落札し、埋まらなければ非認定案件を価格が低い順に落札する二段構えである。あわせて第3回のセル製造国30%制限はリチウムイオン蓄電池には適用しないこととされた。事務局の評価は「製造国は分散したが特定国メーカーのセルが大宗を占めた」であり、制度の狙いは製造地の分散から資本系列の分散へ移った。優先約定の対象はリチウムイオン蓄電池のみ。まず自社セルの製造法人と親会社の認定状況を確認し、非認定ならBMS・消防設備・UL9540Aへの波及を含めて変更可否を判断したい。
出典(一次情報)
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総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 電力安定供給ワーキンググループ(第6回・2026年8月31日)参考資料2「長期脱炭素電源オークションの第4回募集に向けて」2.1(2)⑤(d)蓄電池の要件の強化(p36〜37)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/stable_power_supply_wg/pdf/006_s02_00.pdf -
e-Gov パブリック・コメント 結果公示(案件番号620226020)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620226020&Mode=1
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- 更新履歴
- 2026-09-01 初版公開。
出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/market/proffessional/4626603001002/
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