蓄電池の認定要件にサイバー対策が入る——攻撃を受けたら内閣官房国家サイバー統括室へ報告
何が起きたか:蓄電池の取組方針の改正案が意見公募された。
なぜ重要か:定置用の制御ソフトにサイバー要件が入る。
何をすべきか:10月5日までに意見を出すか調達仕様を確認する。
経済安全保障推進法は特定重要物資として蓄電池を指定しており、取組方針は認定の判断基準と事業者に求める取組を定める文書である。現行版は令和5年1月19日策定、令和6年3月26日改定であり、今回の改正案は令和8年6月に公布された「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律及び株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律」への対応が中心にある。
建物の耐震基準に「防犯設備の点検」が足された状態に近い。壊れないことだけでなく、外から入られないことも認定の条件になるという構図である。本稿は、案のPDFと現行のPDFに書かれている記載だけを並べて、何が加わったのかと、それが誰を拘束するのかを整理する。
何が意見公募にかかっているのか(改正理由は3点だけ)
意見募集期間は2026年9月4日0時00分から2026年10月5日0時00分までの30日間である。公示日は2026年9月4日、案件番号は595320021。提出先は経済産業省商務情報政策局電池産業課(〒100-8901 東京都千代田区霞が関1-3-1/bzl-battery-industry-office@meti.go.jp)で、電話での受付は不可とされている。
意見募集要領が挙げる改正理由は3点しかない。ここを押さえておけば、案のPDFのどこを読むべきかが決まる。
- 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)の改正に伴う事項を追加
- サイバーセキュリティの対応を求める事項を追加
- 全体を通して文章表現の平仄を統一
3点目は表現の整理であり、実務上の判断が変わる部分ではない。読むべきは1点目(条文の追加)と2点目(サイバーセキュリティ)の2か所に絞られる。本稿もこの順で扱う。
追加された条文(第9条の2・第11条の2・第30条・第44条)
案のPDFには、現行版にない条文が引用されている。編集部が案と現行を突き合わせて特定できたのは次の4本である。
- 第9条の2:事業の廃止等の影響調査と、供給確保計画の提出の促し
- 第11条の2:原材料等の供給者その他の関係者への協力要請
- 第30条:関税定率法に基づく職権調査の求め
- 第44条第1項・第6項:指定品目として国が自ら備蓄その他の措置を実施する根拠
並べ方に流れがある。第9条の2は供給が細る兆しをつかむための調査、第11条の2は上流の原材料側まで協力を求める手当て、第30条は輸入面での調査、第44条は最後に国が自ら動く場合の根拠である。供給網が揺らいだときに国が使える手段を、上流から下流、平時から有事へと段階的に足している構図として読める。
第30条・第44条の逐条内容は、案のPDF内の引用(職権調査の求め/指定品目の備蓄措置)以上の一次確認ができていない。条文の全文、適用の要件や場面を本稿から示すことはできない。
なお案のPDFの冒頭は「令和5年1月19日/令和6年3月26日改定」に加えて改定日欄が空欄のままで、令和8年の日付は記載されていない。意見公募段階の文書として、改定日が確定していない状態と読める。
新しく入るサイバーセキュリティ要件
ここが今回の改正案の核である。サイバーセキュリティに関する記載は、性質の異なる3つの層に分かれている。社内の体制、製品そのもの、事故が起きたときの報告という3層で、求められる作業も担当部署も別になる。
① 社内対策:参考にすべきガイドラインが1本増えた
「『サイバーセキュリティ経営ガイドライン』(経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構)や『中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン』を参考に、社内で適切なサイバーセキュリティ対策が講じられていること」
現行の方針は「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」のみを引用していた。案では「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」の参照が追加されている。経営層向けの枠組みだけでなく、規模の小さい事業者が実装しやすい手引きも参照先に加わった形である。
② 製品要件:定置用の制御ソフトが名指しされた
「定置用蓄電システムの生産を行う場合、当該蓄電システムの制御に係るソフトウェアのサイバーセキュリティを確保するために、製品の脆弱性に関する適切な点検、評価、対策等を実施すること」
3層のうち、系統用蓄電池の関係者にとっていちばん近いのはこの層である。「定置用蓄電システム」「制御に係るソフトウェア」「脆弱性に関する点検、評価、対策等」という3つの語がそろっている。ハードウェアの性能や安全性ではなく、制御ソフトの脆弱性という切り口が明文で立てられた点が新しい。
ただし点検の手法、頻度、第三者評価の要否といった具体的な実施水準は、案のPDFの範囲では確認できていない。「適切な」という語に委ねられている部分がどこまでかは、この案からは読み取れない。
③ インシデント報告:報告先が方針上に書かれた
「サイバー攻撃を受けた、又は受けたおそれがある場合、速やかに、経済産業省を通じて内閣官房国家サイバー統括室にサイバーインシデントの報告を行うこと」
これは新設である。現行方針に内閣官房国家サイバー統括室への言及はない。経路は経済産業省を経由して内閣官房国家サイバー統括室へという二段構えで、直接同室に出すのではない点が読み取れる。
「受けたおそれがある場合」も対象に入っている。確証を待たずに動く前提の書き方であり、社内で「おそれ」の判定を誰がどの段階で行うかを決めておかないと、速やかな報告に間に合わない。
拘束されるのは誰か(生産事業者と、系統用蓄電池の事業者の距離)
ここを読み違えると、必要のない対応に手をかけることになる。
この取組方針が直接拘束するのは、経済安全保障推進法の供給確保計画の認定を受けて助成を受ける生産事業者である。
系統用蓄電池を保有・運用する発電事業者やアグリゲーション事業者に新しい義務を課す条項は、案のPDFの範囲では確認できていない。本稿は「系統用蓄電池の事業者に義務が課される」という趣旨で書いていない。
では運用側には無関係なのか。そうではなく、効いてくる経路が間接であるという整理になる。案のPDFから読み取れる範囲で、効き方は2つある。
第一に、定置用蓄電システムの制御ソフトの脆弱性点検・対策が上流メーカーの認定要件として明文化されるため、調達仕様書やO&M契約に「脆弱性点検の実施と報告」を織り込む動きが出る可能性がある。買う側が要求条項として書き込む形で降りてくる経路である。
第二に、サイバーインシデント時の報告経路が方針上に明示されたことで、蓄電池のEMSやSCADAが攻撃を受けた場合の連絡ルートの整理が現実的な検討事項になる。方針が定める報告義務の主体は生産事業者だが、報告経路が公の文書に書かれた以上、供給側と運用側のどちらがどこへ連絡するのかを事前に決めておく実務的な必要が生じる。
加えて、認定を受けている電池メーカーから供給を受けている場合は、メーカー側の対応コストが調達価格に反映される可能性も見ておく必要がある。
認定要件として並ぶ数値
案のPDFには、認定の判断に関わる数値が並んでいる。生産能力の要件は物資の用途ごとに水準が分かれている。
- 車載用:3GWh/年以上
- 定置用:300MWh/年以上
- 蓄電池部素材:蓄電池3GWh/年相当以上(リサイクル材を除く)
定置用の水準は車載用の10分の1である。3GWhは3,000MWhにあたるので、定置用の300MWh/年はその1割の位置にある。車載用と同じ規模を求めていない設計になっている点が、定置用に取り組む事業者にとっての読みどころである。
リサイクルは廃電池(パック)換算で1,000トン/年以上の処理、取組期間は生産が開始された時点から5年以上とされている。取組期間の起点が「生産が開始された時点」である点は、設備の建設期間をどう見るかで計画の組み方が変わるところである。
案のPDFには国家目標も置かれている。遅くとも2030年までに蓄電池・材料の国内製造基盤150GWh/年の確立、2030年におけるグローバル市場での600GWh/年の製造能力の確保、サプライチェーン全体で合計3万人の人材の育成・確保である。個別の認定要件はこの目標に接続する形で並んでいる。
コア技術の管理とGX関連の要件
認定要件はサイバーセキュリティと生産能力だけではない。案のPDFには、技術流出の管理と脱炭素の実績報告に関する要件も並んでいる。
コア技術の管理
- アクセス可能な従業員を必要最小限に制限する
- 退職時の守秘義務誓約を取る
- 他国生産拠点を10%を超える割合で増強する場合等は事前に経済産業省へ相談する(85%以上が当該他国で消費される場合を除く)
3点目の書き方が実務上いちばん細かい。10%という増強の閾値と、85%という現地消費の除外基準が組み合わさっている。現地で売るための増強は除外され、それ以外の増強は事前相談の対象になるという切り分けである。
GX関連の要件
- 製品単位のCFP(カーボンフットプリント)の算定・報告
- 国内Scope1・2の2025年度/2030年度削減目標の設定と、第三者検証付きの年次報告・公表
- 未達時はJクレジット又はJCMクレジットの調達か、未達理由の報告・公表
未達時に選択肢が2つ置かれている点が特徴である。クレジットを買って埋めるか、埋めずに理由を公表するかという構成で、未達そのものを直ちに失格とする書き方ではない。
専門家の視点
- この取組方針が直接拘束するのは、経済安全保障推進法の供給確保計画の認定を受けて助成を受ける生産事業者である。系統用蓄電池を保有・運用する発電事業者やアグリゲーション事業者に新しい義務を課す条項は、案のPDFの範囲では確認できない。運用側に効くのは調達仕様書とO&M契約を経由した間接の経路である。
- サイバーインシデントの報告先として「内閣官房国家サイバー統括室」が方針上に明記されたのは新設である。現行方針に同室への言及はない。報告経路が公の文書に書かれたことで、供給側と運用側の連絡ルートを事前に決めておく必要が生じる。
- 同じ2026年9月4日に、ロケットの部品・人工衛星・重要鉱物・半導体・先端電子部品の取組方針改正案が同時に公示されている。経済安全保障推進法の改正への一括対応と読める。蓄電池だけの個別事情による改正ではないという前提で読むほうが、条文追加の意図が理解しやすい。
いま取るべきアクション
| # | アクション | 期限 |
|---|---|---|
| 1 | 自社が経済安全保障推進法の認定を受けている、または申請を検討している場合は、案のPDFと現行のPDFを突き合わせてサイバーセキュリティ要件の差分を確認する | 2026-10-05 |
| 2 | 意見がある場合は2026年10月5日0時00分までにe-Govまたは電池産業課へ提出する | 2026-10-05 0時00分 |
| 3 | 調達仕様書・O&M契約に、定置用蓄電システムの制御ソフトの脆弱性点検の実施と報告を求める条項があるかを確認する | 2026-10-05 |
| 4 | EMS・SCADAがサイバー攻撃を受けた場合の社内連絡ルートを整理する | 近日中 |
数値照合表
本文に出た主要数値と一次情報を1対1で対照した表である。出典は今回の意見公募に付された4本の一次資料に限っている。
| # | 項目 | 本文の値 | 一次情報(出典) |
|---|---|---|---|
| 1 | 意見募集期間 | 2026年9月4日0時00分〜2026年10月5日0時00分(30日間) | e-Gov 案件ページ |
| 2 | 案件番号・公示日 | 595320021/2026年9月4日 | 同 e-Gov 案件ページ |
| 3 | 改正理由 | 3点(①法改正に伴う事項の追加/②サイバーセキュリティの対応を求める事項の追加/③文章表現の平仄の統一) | 意見募集要領(PDF) |
| 4 | 提出先 | 経済産業省商務情報政策局電池産業課(〒100-8901 東京都千代田区霞が関1-3-1/bzl-battery-industry-office@meti.go.jp)。電話での受付は不可 | 同 意見募集要領(PDF) |
| 5 | サイバーセキュリティ①(認定要件) | 「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」(経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構)や「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」を参考に、社内で適切なサイバーセキュリティ対策が講じられていること | 取組方針(案)(PDF) |
| 6 | サイバーセキュリティ②(製品要件) | 定置用蓄電システムの生産を行う場合、当該蓄電システムの制御に係るソフトウェアのサイバーセキュリティを確保するために、製品の脆弱性に関する適切な点検、評価、対策等を実施すること | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 7 | サイバーセキュリティ③(インシデント報告・新設) | サイバー攻撃を受けた、又は受けたおそれがある場合、速やかに、経済産業省を通じて内閣官房国家サイバー統括室にサイバーインシデントの報告を行うこと | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 8 | 現行方針との差分 | 現行は「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」のみの引用。中小企業向けガイドラインの参照が追加され、内閣官房国家サイバー統括室への言及は現行にない | (現行)取組方針(PDF) |
| 9 | 案で引用された追加条文 | 第9条の2/第11条の2/第30条/第44条第1項・第6項 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 10 | 生産能力の認定要件(車載用) | 3GWh/年 以上 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 11 | 生産能力の認定要件(定置用) | 300MWh/年 以上 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 12 | 生産能力の認定要件(蓄電池部素材) | 蓄電池3GWh/年相当 以上(リサイクル材を除く) | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 13 | リサイクルの要件 | 廃電池(パック)換算 1,000トン/年 以上の処理 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 14 | 取組期間 | 生産が開始された時点から5年以上 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 15 | 他国生産拠点の増強に関する事前相談 | 10%を超える割合で増強する場合等は事前に経済産業省へ相談(85%以上が当該他国で消費される場合を除く) | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 16 | GX関連の要件 | 製品単位のCFP算定・報告/国内Scope1・2の2025年度・2030年度削減目標の設定と第三者検証付きの年次報告・公表/未達時はJクレジット又はJCMクレジットの調達か未達理由の報告・公表 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 17 | 国家目標 | 2030年までに国内製造基盤150GWh/年/2030年のグローバル製造能力600GWh/年/人材3万人 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 18 | 改定日欄 | 案のPDF冒頭は「令和5年1月19日/令和6年3月26日改定」に加え改定日欄が空欄。令和8年の日付は未記載 | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 19 | 第30条・第44条の逐条内容 | 未確認(案のPDF内の引用以上の一次確認ができていない) | 同 取組方針(案)(PDF) |
| 20 | 系統用蓄電池の運用事業者への直接の新義務 | 該当条項を確認できていない(案のPDFの範囲) | 同 取組方針(案)(PDF) |
よくある質問
編集体制と事実確認プロセス
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- 本文に登場した主要数値は「数値照合表」で出典と1対1で対照できるようにしています。
- 制度の拘束の射程は、確認できた範囲を超えて広く書きません。本稿では、直接拘束されるのが供給確保計画の認定を受ける生産事業者であること、系統用蓄電池の運用事業者への直接の新義務は案のPDFの範囲で確認できていないことを明記しています。
- 事実確認の限界(原本の一部が未精読である、逐条の一次確認ができていない等)は隠さず本文に記載します。本稿では第30条・第44条の逐条内容が未確認であることを明記しています。
出典(一次情報)
- e-Gov:蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針の改正案に対する意見の公募(案件番号595320021/公示2026-09-04)
- 意見募集要領(PDF)
- 蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針(案)(PDF)
- (現行)蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針(PDF)
※二次情報(業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信)は出典に用いていません。本稿の数値・条項は出典1〜4の記載に基づき、第30条・第44条の逐条内容は出典3内の引用以上の一次確認ができていません。
出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/institutional/proffessional/4627203102001/
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