櫻貿易株式会社
市場・価格上級

判定基準は決まった。ただし全国一律ではない——調整力指令と出力制御指令が重複したときのアセスメント

EPRX(一般社団法人 電力需給調整力取引所)は2026年9月10日15時、「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」を公表した。判断の根拠に置かれたのは国の審議会の整理で、公表文は第61回需給調整市場検討小委員会の資料3を注記で指し示している。EPRXはこの整理をもとにアセスメントⅡおよび調整判定を実施するという。ここまでなら「基準が明文化された」で話は終わる。だが公表文には続きがある。属地エリアの一般送配電事業者のシステム都合等の理由から、給電申合書等で「基本的な対応以外」の取り扱いが取り決められる場合があるとされているのだ。

読了:約5分(目安) 対象読者:上級(アグリゲーター・電力会社・市場参加者) 緊急度:初級 1 / 中級 3 / 上級 5
図解サマリー(3行)

何が起きたか:重複時のアセスメント判定の根拠が、国の審議会の整理に置かれた。

なぜ重要か:蓄電池は指令がぶつかりやすく、未達判定はペナルティに直結する。

何をすべきか:属地一送との給電申合書に別扱いの取り決めがないか確認する。

何が公表されたのか——判定の根拠が国の審議会の整理に置かれた

公表はEPRXの新着情報として、同日15時にPDF(125.1KB)で出された。分量は多くない。骨子は3つである。

EPRXが公表した調整力指令と出力制御指令の重複時の取り扱いの骨子。判断の根拠は第61回需給調整市場検討小委員会 資料3の整理、EPRXはこれをもとにアセスメントⅡと調整判定を実施、ただし給電申合書等による例外がある。
図1:EPRX公表文の骨子。出典:EPRX「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」(PDF)。作図=BESS NEWS編集部。
原文引用(根拠)

国の審議会において、調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて、基本的な対応が整理されております

注記で示されているのが、第61回需給調整市場検討小委員会 資料3「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」である。市場運営者が独自に決めた運用ではなく、制度側で整理された内容を引くという形になっている。

原文引用(EPRXの対応)

本整理をもとにアセスメントⅡおよび調整判定を実施いたします

この一文の意味は小さくない。アセスメントⅡは実際の供出量の評価であり、その判定の根拠がどこにあるかは、事業者が結果に疑問を持ったときに立つ土俵そのものになる。根拠が市場運営者の裁量ではなく審議会の整理に置かれたという点が、この公表で確定した事実である。

なぜ指令が重なるのか——蓄電池は充放電の双方向だから

需給調整市場に供出している電源には、中央給電指令所からΔkWの調整力指令が出る。一方、系統混雑や需給余剰の局面では、それとは別系統で出力制御指令が出る。指令の出どころも目的も違うため、同一断面で両方が届くことが起こりうる。

系統用蓄電池に調整力指令と出力制御指令が同時に届く構造の図。調整力指令はΔkWの供出を求め、出力制御指令は充電の推奨や放電の抑制を求めるため、充放電双方向の蓄電池では指令が構造的にぶつかる。
図2:蓄電池は充放電の双方向で動くため、2系統の指令が構造的にぶつかりやすい。出典:EPRX「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」(PDF)。作図=BESS NEWS編集部。

蓄電池はここで固有の位置に立つ。充電と放電の双方向で動く電源であるため、出力制御指令が求める方向(充電の推奨、放電の抑制)と、調整力指令が求める方向(ΔkWの供出)が構造的にぶつかりやすい。片方向で考えられる電源とは事情が違う。

実務上の争点は明快だった。どちらに従うべきかと、従わなかった側についてアセスメントで未達と判定されるのか、である。未達判定はペナルティに直結し、そのまま実収入に効く。

そして、再エネ出力制御が常態化しているエリア(北海道・九州・中国・四国等)で供出している案件にとって、この重複は例外的な事象ではない。出力制御が出る時間帯は、需給調整市場の価格が動く時間帯でもある。

同時期に進む隣の整理

第22回グリッドコード検討会の資料5では、需給調整市場で一次調整力として約定した場合には、一般送配電事業者がLFSMを「除外」に指定していても調定率に基づく周波数応動を可能とする、という整理が示された。規定値の詳細は別稿で扱った。市場指令・系統指令・自端応動の三者の優先順位が、いま並行して詰められている。

確認先は取引規程ではなく給電申合書

本件で最も実務に効くのは、次の一文である。

原文引用(例外の存在)

属地エリアの一般送配電事業者のシステム都合等の理由から、事業者と属地エリアの一般送配電事業者間で締結する給電申合書等により、基本的な対応以外の取り扱いについて取り決められる場合がございます

調整力指令と出力制御指令の重複時の取り扱いは全国一律ではないことを示す図。取引規程では自社エリアの扱いが分からず、属地の一般送配電事業者と締結した給電申合書等に戻る必要がある。
図3:確認先は取引規程ではなく給電申合書。出典:EPRX「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」(PDF)。作図=BESS NEWS編集部。

つまり取引規程を読んでも自社エリアの取り扱いは分からない。戻るべき書類は、属地の一般送配電事業者と個別に締結している給電申合書等である。市場ルールの確認先が市場運営者の規程ではなく系統運用者との個別契約書面になっている点が、この案件の特異なところだ。

そうした取り扱いを行うエリアについては、EPRXが「需給調整市場に係る取引規程等の公表|調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱い」のページで公表するとしている。まずはここで自社の供出エリアが該当するかを見る、という順序になる。

複数エリアで供出しているアグリゲーターにとっての含意は具体的である。全エリア共通のEMSロジックで運用していると、例外エリアだけアセスメント未達を招くおそれがある。指令競合時の優先順位は、エリア別に分岐させる前提で設計を見直すことになる。

「基本的な対応」の中身は、この公表文からは読み取れない

正直に書いておく。どちらの指令を優先するのかという肝心の内容は、EPRXの公表文には書かれていない。公表文が示しているのは「国の審議会で基本的な対応が整理されている」という事実と、EPRXがその整理をもとに評価を行うという方針である。

中身を知るには、注記で指し示された第61回需給調整市場検討小委員会 資料3に当たる必要がある。本稿執筆時点で、編集部は同資料を未入手であり、内容を確認していない。

EPRXの公表文で確認できたことは、判断の根拠が第61回需給調整市場検討小委員会 資料3の整理であること、EPRXがアセスメントⅡおよび調整判定を実施すること、給電申合書等による例外があることの3点。公表文からは分からないことは、どちらの指令を優先しどう評価されるかという「基本的な対応」の中身、例外が取り決められたエリアの具体名、例外の取り扱いの内容の3点。
図4:EPRX公表文で確認できたことと、確認できていないことの切り分け。右の3点は、第61回小委 資料3とEPRXの公表ページ、属地一送との給電申合書に当たって初めて確定する。出典:EPRX「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」(PDF)。作図=BESS NEWS編集部。
本稿執筆時点で未確認の事項
  • 「基本的な対応」の具体的内容(どちらの指令を優先し、従わなかった側がどう評価されるか)
  • 「基本的な対応以外」が取り決められているエリアの具体名
  • 例外の取り扱いの内容(エリアごとにどう異なるか)
  • 適用開始時期に関する明示の記述の有無(編集部が確認した範囲では公表文から読み取れていない)

いま取るべきアクション

#アクション期限
1EPRXの「需給調整市場に係る取引規程等の公表|調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱い」ページで、自社の供出エリアが「基本的な対応以外」に該当するかを確認する2026-09-17
2第61回需給調整市場検討小委員会 資料3を入手し、「基本的な対応」の具体的内容を確認する2026-09-17
3属地の一般送配電事業者と締結している給電申合書等に、本件に関する取り決めがあるかを確認する2026-09-30
4EMSの指令競合時の優先順位ロジックを、確認結果に基づきエリア別に見直す2026-10-31

専門家の視点

  1. 判断の根拠が制度側に置かれたことが、この公表の意味である。EPRXは「本整理をもとにアセスメントⅡおよび調整判定を実施いたします」と明言している。市場運営者の裁量ではなく、第61回需給調整市場検討小委員会 資料3の整理が判定の土台になる。結果に疑問を持ったときの立脚点が変わる。
  2. 確認すべき書類が給電申合書であるという点が、実務の落とし所になる。取引規程は全国共通の文書だが、本件の例外は一般送配電事業者のシステム都合という個別事情から生じるため、個別締結の書面に落ちている。市場ルールの確認を規程だけで完結させる運用では、この例外を拾えない。
  3. 例外の存在は、収支モデルの前提にも触れてくる。出力制御の発生頻度が高いエリアの案件では、需給調整市場収入の見込みに指令競合分の目減りを織り込むかどうかの判断が要る。ただし織り込む幅を決めるには「基本的な対応」の中身が必要で、そこは本稿執筆時点で未確認である。

数値照合表

本文に出た主要事項と一次情報を1対1で対照した表である。本件は原典に数値そのものが少ないため、日付・時刻・回次・ファイル形式といった原典で確認できる項目を対照している。

#項目本文の値一次情報(出典)
1公表日時2026年9月10日15時EPRX「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」(PDF)
2公表形式・ファイルサイズPDF・125.1KB同 PDF
3参照された審議会・資料第61回 需給調整市場検討小委員会 資料3「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」同 PDF(注記)
4EPRXが実施するものアセスメントⅡおよび調整判定同 PDF
5例外の根拠となる書面事業者と属地エリアの一般送配電事業者間で締結する給電申合書等同 PDF
6例外エリアの開示先「需給調整市場に係る取引規程等の公表|調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱い」ページ(当該ページのURLは本稿執筆時点で実在確認ができておらず、リンクは張っていない)同 PDF
7「基本的な対応」の具体的内容未確認(EPRX公表文には記載がなく、第61回小委 資料3に当たる必要がある)同 PDF

よくある質問

Q1. 調整力指令と出力制御指令が重複した場合、どちらに従えばよいのですか。
EPRXの公表文からは読み取れません。公表文は「国の審議会において、調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて、基本的な対応が整理されております」と述べるにとどまり、どちらを優先するかという具体的内容は記載されていません。中身を確認するには、注記で示された第61回需給調整市場検討小委員会 資料3「調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて」に当たる必要があります。編集部は本稿執筆時点で同資料を未入手です。
Q2. アセスメントの判定はどのように行われるのですか。
EPRXは「本整理をもとにアセスメントⅡおよび調整判定を実施いたします」と明言しています。つまり判定の根拠は市場運営者の運用判断ではなく、国の審議会で整理された内容に置かれます。アセスメントⅡは実際の供出量の評価であり、未達と判定されればペナルティに直結します。
Q3. 全国どのエリアでも同じ取り扱いになるのですか。
いいえ。EPRXは「属地エリアの一般送配電事業者のシステム都合等の理由から、事業者と属地エリアの一般送配電事業者間で締結する給電申合書等により、基本的な対応以外の取り扱いについて取り決められる場合がございます」としています。全国一律ではありません。
Q4. 自社エリアの取り扱いはどこを見れば分かりますか。
取引規程ではなく、属地の一般送配電事業者と締結している給電申合書等です。あわせてEPRXは、基本的な対応以外の取り扱いを行うエリアについて「需給調整市場に係る取引規程等の公表|調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱い」のページで公表するとしています。
Q5. なぜ蓄電池でこの重複が問題になりやすいのですか。
蓄電池は充電と放電の双方向で動く電源だからです。出力制御指令が求める方向(充電の推奨、放電の抑制)と、調整力指令が求める方向(ΔkWの供出)が構造的にぶつかります。とくに再エネ出力制御が常態化しているエリア(北海道・九州・中国・四国等)で供出している案件では、アセスメント結果が実収入に直結します。
Q6. いま何を確認すべきですか。
3点あります。①EPRXの公表ページで自社の供出エリアが「基本的な対応以外」に該当するか、②第61回需給調整市場検討小委員会 資料3で「基本的な対応」の具体的内容、③属地の一般送配電事業者と締結している給電申合書等に本件の取り決めがあるか、です。そのうえで、EMSの指令競合時の優先順位ロジックをエリア別に見直すことになります。

編集体制と事実確認プロセス

BESS NEWSの記事はこう作っています

  • BESS NEWSは一次情報主義を採ります。官公庁・電力広域的運営推進機関・市場運営者・一般送配電事業者が自ら公表した文書とページのみを出典とし、業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信の二次情報は出典に用いません。
  • 数値・日付・引用は一次情報に記載された値をそのまま用います。未公表・未確定・未入手の事項は「未確認」と明記し、推測で埋めません。
  • 本文に登場した主要事項は「数値照合表」で出典と1対1で対照できるようにしています。
  • 事実確認の限界は隠さず本文に書きます。本稿では、第61回需給調整市場検討小委員会 資料3を未入手であり「基本的な対応」の具体的内容を確認していないことを明記しています。

出典(一次情報)

  1. EPRX:調整力指令と出力制御指令が重複した場合の取り扱いについて(PDF・125.1KB・2026年9月10日15時公表)
  2. EPRX 新着情報

※第61回 需給調整市場検討小委員会 資料3は、本稿執筆時点で編集部が未入手であり、掲載URLの実在確認ができていないためリンクを張っていません。二次情報(業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信)は出典に用いていません。

出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/market/proffessional/4627503001002/

本記事は BESS media の転載条件(出典明記のうえ全文転載可)にもとづき転載しています。 記事内容の著作権は転載元に帰属します。

お気軽にご相談ください

系統用蓄電池事業についてなど、まずはお気軽にお話しください。

メールでお問い合わせいただいたお問い合わせには、2〜3営業日以内に担当者よりご返信いたします。
些細なことでも、まずはお気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら

NEWS

お知らせ