櫻貿易株式会社
市場・価格上級

168万kWの枠に、1件も応札がなかった

災害で発電所がまとめて落ちたとき、あるいは需要が読みを超えて伸びたとき、すぐ立ち上げられる発電所を休ませたまま残しておく。その維持費を国の仕組みで払う。それが予備電源制度である。OCCTOは2026年8月19日から9月15日まで、2027年度・2028年度の制度適用開始に向けた枠を募集した。東(50Hz)エリア100万kW、西(60Hz)エリア68万kW、合わせて168万kW。9月16日に公表された結果は、応札ゼロだった。

読了目安:約7分対象読者:上級(容量市場・需給調整市場の収益を織り込んで系統用蓄電池の事業計画を組む事業開発・運用責任者)種別:ニュース解説+制度分析

募集枠
168万kW(東50Hz 100万kW+西60Hz 68万kW)
応札
0件(2026年9月16日公表)
募集期間
8/19〜9/15(2026年)
次の議論の場
9月29日第122回 調整力等委員会 17:00〜19:00
図解サマリー(3行)

何が起きたか:OCCTOが2026年9月16日、2026年度予備電源募集(2027年度・2028年度制度適用開始向け)の結果を公表し、東(50Hz)エリア100万kW・西(60Hz)エリア68万kWの募集に応札がなかったことを明らかにした。

なぜ重要か:予備電源は、大規模災害等による電源脱落や需要急増時に追加の供給力を確保するための備えとして国の審議会で整理された制度である。その枠が全く埋まらなかった。

何をすべきか:2026年9月29日の第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会を注視し、供給信頼度の確保がどの手段へ振り向けられるかを確認する。議題に「補完オークションについて」が入っている。

168万kWの枠に、1件も応札がなかった

OCCTOの募集結果ページ(更新日2026年9月16日)には、一文だけが加わっている。

2026年9月16日 当募集への応札はありませんでした。

— OCCTO「2026年度予備電源募集(2027年度・2028年度制度適用開始向け)の募集結果について」

募集期間は2026年8月19日(水)から9月15日(火)まで。締切の翌日に結果が出た。応札が1件でもあれば審査の説明が要るが、ゼロなら書くことがない。ページの淡白さが、そのまま結果の性格を映している。

募集内容は募集要綱に書かれている。2027年度・2028年度制度適用開始向けの予備電源として、東(50Hz)エリアにおいて100万kW、西(60Hz)エリアにおいて68万kW。合わせて168万kWである。

見落としやすいのは、その前段だ。OCCTOは募集要綱案と契約約款案について事前に意見募集をかけていた。結果は意見なし。意見が出ないまま要綱と約款を確定させ、募集に進み、応札もゼロだった。制度設計の段階から、事業者がこのテーブルに着いていなかったと読める。

OCCTO 2026年度予備電源募集の枠は東50Hzエリア100万kWと西60Hzエリア68万kWの計168万kWで、募集期間は2026年8月19日から9月15日まで、応札は1件もなかったことを示す図。
図1:募集枠の内訳・募集期間・結果。出典=OCCTO 募集結果ページおよび予備電源募集要綱。作図=BESS NEWS編集部。

予備電源とは何だったのか——容量市場でも長期脱炭素電源オークションでもない

供給力を確保する国の仕組みは複数ある。混同されやすいので、対価を払う対象で区別したい。

OCCTOによる予備電源制度の説明はこうである。

大規模災害等による電源の脱落や、需要の急増など、追加の供給力を確保する必要が生じた際に、一定期間内に稼働が可能な休止電源を維持する仕組みとして、当機関が実施することとして国の審議会において整理されました

— OCCTO 募集結果ページ

対価の対象は「休止電源を、一定期間内に稼働が可能な状態のまま維持すること」。動かすことにではなく、動かせる状態を保つことに払う。

容量市場は違う。実需給の4年前に、供給力(kW)を広く調達する。長期脱炭素電源オークションも違う。新設・リプレースの電源について、固定費を長期にわたって保証する。前者は既存の供給力を広く押さえる制度、後者は新しい電源を建てさせる制度である。

予備電源はそのどちらでもない。すでに止まっている電源を、止まったまま生かしておく。供給力確保の最後の備えにあたる位置づけである。

容量市場は4年前に供給力を調達し、長期脱炭素電源オークションは新設・リプレースの固定費を長期保証し、予備電源は休止電源を動かせる状態で維持することに対価を払うという役割分担を示す図。
図2:容量市場・長期脱炭素電源オークション・予備電源の役割分担。出典=OCCTO 募集結果ページおよび予備電源制度ガイドライン。作図=BESS NEWS編集部。

なぜ手が挙がらなかったのか(ここからは本レポートの推定)

ここから先は推定です

応札がゼロになった理由を、OCCTOは説明していない。募集結果ページは結果だけを載せ、分析も所感も書いていない。以下は公表資料に基づく事実ではなく、編集部の推定である。

休止した電源を「一定期間内に稼働が可能」な状態で維持するには、費用が止まらない。設備の保全は続ける必要がある。運転と保守ができる人員も手放せない。燃料の調達体制も生かしておかなければ、いざというときに立ち上がらない。どれも発電しなくても出ていく固定費である。

一方、予備電源は発動されるまで電気を売らない。収入は待機への対価だけだ。

ここに比較が入る。同じ設備を容量市場に出せばkW価値が得られる。卸電力市場でも需給調整市場でも、動かせば収益機会がある。「休ませたまま待たせる」ことを選ぶには、その対価が、動かして稼ぐ道を諦める分を上回っていなければならない。今回それが上回らなかった、という説明は成り立つ。

繰り返すが、これは推定である。要綱の対価水準や応札要件のどこが効いたのかを特定する材料は、現時点の公表情報にはない。

確保できなかった168万kWの行き先

事実として押さえるべきは二つある。168万kWぶんの予備供給力が確保できなかったこと。そして、その穴を埋める代替手段について公表ページが何も述べていないことである。再募集をするのか、条件を変えるのか、制度そのものを見直すのか。言及はない。

そのうえで、系統用蓄電池の事業計画に効く筋を挙げる。

ひとつは需給の余裕である。備えが薄いまま2027年度・2028年度を迎える可能性が残る。需給が締まる局面ではスポット価格が跳ねやすくなり、裁定収益には上振れ要因として働く。ただし系統側が別の手当てを進めれば、跳ねは抑えられる方向にも動く。片側に前提を振ると、どちらに転んでも計画を外す。

もうひとつは手段としての位置づけだ。予備電源が埋まらなかった以上、追加の供給力は別の資源から取るほかない。起動が速く、指令への応答も速いBESSは、その候補として相対的な重みを増す方向にある。ただし本件ひとつを根拠に投資判断を動かせる段階ではない。

9月29日、補完オークションが議題に載る

応札ゼロの公表と同じ9月16日、OCCTOはもうひとつの案内を出している。第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会が、2026年9月29日17時から19時まで開かれる(会議室O/Web併用)。

議題は3本ある。

  1. 補完オークションについて
  2. 需給状況を表す新たなシグナルの検討状況について
  3. 今後の供給信頼度評価の課題整理について(報告)

予備電源の結果と直接ひもづけた説明が出ているわけではない。ただ、供給信頼度をどう確保するかという問いを扱う場が、結果公表の13日後に設定されている。補完オークションの設計次第では、BESSが応札できる収益機会が立ち上がる可能性もある。読むべきは結論よりも応札要件の記述である。

次の議論の場は2026年9月29日17時から19時に開かれる第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会で、補完オークションを含む議題3本が予定されていることを示す図。
図3:次の議論の場と議題。出典=OCCTO 第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会。作図=BESS NEWS編集部。

今から備えること

#アクション期限
1第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会(2026年9月29日17:00)の配布資料を取得し、「補完オークション」の設計案とBESSの応札可否を確認する2026-09-29
2予備電源の再募集または制度見直しに関するOCCTOの新着を監視対象として継続する2026-10-31
3応札ゼロの理由について、OCCTOの委員会資料または事後の整理文書で公式な説明が出るかを追跡する2026-11-30
42027年度・2028年度の需給前提を、予備電源168万kWが確保されないケースで置き直す2026-12-31

よくある質問

Q1. 応札ゼロというのは、誰も予備電源に関心がなかったということですか。
公表されているのは「当募集への応札はありませんでした」という結果だけです(募集結果ページ・更新日2026年9月16日)。OCCTOは理由を説明していません。募集要綱案・契約約款案への意見募集でも意見の提出はなく、制度設計の段階から事業者の反応が乏しかったことは読み取れますが、関心の有無を結果から断定することはできません。
Q2. 予備電源は容量市場や長期脱炭素電源オークションと何が違うのですか。
対価を払う対象が違います。容量市場は実需給の4年前に供給力(kW)を広く調達する制度、長期脱炭素電源オークションは新設・リプレース電源の固定費を長期にわたって保証する制度です。予備電源は、すでに休止している電源を一定期間内に稼働が可能な状態のまま維持することへ対価を払います。OCCTOは「大規模災害等による電源の脱落や、需要の急増など、追加の供給力を確保する必要が生じた際に、一定期間内に稼働が可能な休止電源を維持する仕組み」と説明しています。
Q3. 168万kWという枠の内訳と、募集の期間はどうなっていましたか。
募集要綱では、2027年度・2028年度制度適用開始向けの予備電源として、東(50Hz)エリアにおいて100万kW、西(60Hz)エリアにおいて68万kWをそれぞれ募集するとされていました。合計は168万kWです。募集期間は2026年8月19日(水)から2026年9月15日(火)まででした。なお、この枠がどう算定されたかは、本稿が用いた公表ページと募集要綱の範囲では確認していません。
Q4. 応札がなかった理由は何ですか。
公表資料に説明はありません。以下は本レポートの推定です。休止電源を維持するには設備の保全・人員の確保・燃料調達体制の維持といった固定費が継続して発生する一方、予備電源は発動されるまで収益を生みません。同じ設備を容量市場に出せばkW価値が得られ、卸電力市場や需給調整市場にも収益機会があります。待機させ続けることの機会費用が予備電源の対価を上回った、という説明は成り立ちますが、OCCTOがそう述べたわけではありません。
Q5. 再募集はあるのですか。制度は見直されるのですか。
募集結果ページは応札がなかったという結果のみを示しており、再募集の有無・時期にも、制度見直しの方針にも触れていません。現時点で先行きを断定できる材料はありません。OCCTOの新着と、2026年9月29日の第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会の資料を追うのが確実です。
Q6. 系統用蓄電池の事業計画には、どう効きますか。
二方向に効きます。168万kWの予備供給力が確保できないまま2027年度・2028年度を迎える可能性があり、需給が締まる局面ではスポット価格が跳ねやすくなります。これは裁定収益の上振れ要因です。一方で、系統側が補完オークション等で手当てを進めれば、跳ねは抑えられる方向にも働きます。前提を片側に振らないことをお勧めします。あわせて、補完オークションの設計によってはBESSが応札できる新しい収益機会が生じ得るため、9月29日の委員会資料で応札要件を確認する価値があります。

編集体制と事実確認プロセス

BESS NEWSの記事はこう作っています

  • BESS NEWSは一次情報主義を採ります。官公庁・電力広域的運営推進機関・一般送配電事業者・執行団体が自ら公表した文書とページのみを出典とし、業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信の二次情報は出典に用いません。
  • 本稿の数値・引用は、OCCTOの募集結果ページと、同ページから公表されている募集要綱・契約約款・ガイドラインのPDFを保存したうえで突合しています。対照結果は「数値照合表」に出典つきで示しました。
  • 応札がゼロだった理由は公表されていません。本稿の「なぜ手が挙がらなかったのか」の節とQ4は編集部の推定であり、OCCTOの説明ではありません。該当箇所にその旨を明記しています。
  • 再募集の有無・時期、制度見直しの方針は公表ページに記載がありません。未確認として扱い、推測で埋めていません。
  • 供給力確保・価格形成への影響についての記述は、一次情報の事実に基づく編集部の解釈です。確定した見通しではありません。

編集部の見立て

  1. 応札ゼロを「制度の失敗」と読むのは早い。今回分かったのは、この条件と枠組みでは休止電源が出てこなかったという一点である。対価水準・応札要件・契約期間のどれが効いたのかは公表されておらず、制度の評価はその材料が出てからでよい。
  2. 実務上は、9月29日の補完オークションの議論のほうが先に効く。予備電源が埋まらない状態で供給信頼度を確保する手段を扱う場であり、設計次第ではBESSの応札可否が論点に入る。読むべきは結論よりも応札要件の記述である。
  3. 需給前提は両側で持ちたい。168万kWが確保できていないことは需給逼迫側の材料だが、系統側の追加対策が入れば逆へ振れる。今の段階で価格前提を上下どちらかに寄せると、9月29日以降の情報で組み直しになる。

数値照合表

本文に出した主要な数値を、一次情報の該当箇所と1対1で対照した表である。

#項目本文の値一次情報の記載・出典
1応札結果応札ゼロ「2026年9月16日 当募集への応札はありませんでした。」/OCCTO 募集結果ページ(更新日2026年9月16日)
2募集期間2026年8月19日〜9月15日「2026年8月19日(水)〜2026年9月15日(火)」/OCCTO 募集結果ページ
3東(50Hz)エリアの募集枠100万kW「東(50Hz)エリアにおいて100万kW…をそれぞれ募集します」/予備電源募集要綱
4西(60Hz)エリアの募集枠68万kW「西(60Hz)エリアにおいて68万kW…をそれぞれ募集します」/予備電源募集要綱
5募集枠の合計168万kW100万kW+68万kW=168万kW(編集部による合算。原文に合計値の記載はない)/予備電源募集要綱
6制度の趣旨一定期間内に稼働が可能な休止電源を維持する仕組み「大規模災害等による電源の脱落や、需要の急増など、追加の供給力を確保する必要が生じた際に、一定期間内に稼働が可能な休止電源を維持する仕組みとして、当機関が実施することとして国の審議会において整理されました」/OCCTO 募集結果ページ
7事前の意見募集意見なし募集要綱案および契約約款案への意見募集で「意見はなかった」/OCCTO 募集結果ページ
8関連文書(本体)のファイルサイズ募集要綱480KB/契約約款531KB/ガイドライン283KB掲載表記のファイルサイズ(いずれも2026年8月19日付)/OCCTO 募集結果ページ
9関連文書(様式)のファイルサイズ様式1 応札書19KB/様式2 提案書127KB/様式3 誓約書173KB/様式4 再応札書・応札辞退書24KB掲載表記のファイルサイズ/OCCTO 募集結果ページ
10次の委員会の日時2026年9月29日17:00〜19:00第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会(会議室O/Web併用)/OCCTO 委員会ページ
11委員会の議題3本「補完オークションについて」「需給状況を表す新たなシグナルの検討状況について」「今後の供給信頼度評価の課題整理について(報告)」/OCCTO 委員会ページ

出典(一次情報)

  1. OCCTO:2026年度予備電源募集(2027年度・2028年度制度適用開始向け)の募集結果について(更新日2026年9月16日)
  2. 予備電源募集要綱(2027年度・2028年度制度適用開始向け)(2026年8月19日公表)
  3. 予備電源契約約款(2026年8月19日公表)
  4. 予備電源制度ガイドライン
  5. OCCTO:第122回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会(開催日:2026年9月29日)

※二次情報(業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信)は出典に用いていません。

出典: BESS media(株式会社エコ革)
https://bessnews.jp/market/proffessional/4628103001001/

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